基本定義

IPOディスカウントとは、新規上場時ファイナンスの公開価格決定プロセスにおいて、算出された理論価格(想定時価総額)に対して一定率の割引を行い、想定発行価格を決定すること、またはその割引部分のことをいう。

主幹事証券会社が類似会社比較法やDCF法などにより算出した理論価格から、一般的に20〜30%程度割り引かれた価格が想定発行価格として設定される。この割引率は、IPO時の市況により変動する。

概要

適用対象 新規上場時のファイナンス(公募・売出し)における想定発行価格の決定
一般的な割引率 20〜30%程度(市況・市場区分により変動)
決定主体 主幹事証券会社と新規上場申請会社の協議により決定
根拠規制 明確な法的根拠はなく、市場慣行として定着

IPOディスカウントの理由

IPOディスカウントが行われる背景には、主に以下の要因がある。

1
情報の非対称性への対応
新規上場会社は既存の上場会社に比べて開示情報が限定的であり、投資家にとって投資リスクが高いと評価されるため、そのリスク見合いとして一定の割引が求められる。
2
需要喚起
IPO時に大量に放出される株式を確実に消化するため、割安感を醸成することで投資家の投資意欲を高める必要がある。
3
マーケット変動リスクへの対応
ブックビルディングの仮条件価格帯決定から上場日まで概ね3週間を要するため、その期間中の市場変動リスクに対する調整として割引が設定される。
4
流通市場への円滑な移行
従来、市場評価のなかった株式の適正価格を発見するため、価格算定能力の高い投資家の関心を高め、円滑な流通市場の形成を促進する。

価格決定プロセスにおける位置づけ

IPOディスカウントは、ブックビルディング方式における想定発行価格の決定段階で適用される。

理論価格の算出
主幹事証券会社が類似会社比較法、DCF法等により企業価値・株式価値を算定
IPOディスカウントの適用
理論価格から20〜30%程度を割り引いた価格を算出
想定発行価格の決定
発行体と主幹事証券会社の協議により想定発行価格を決定
仮条件の設定
機関投資家へのプレマーケティング結果等を踏まえ仮条件価格帯を決定
公開価格の決定
ブックビルディングの結果に基づき最終的な公開価格を決定

計算方法

想定発行価格の算出式
想定発行価格 = 理論価格 × (1 - ディスカウント率)
計算例

理論価格が2,000円、ディスカウント率が30%の場合

想定発行価格 = 2,000円 × (1 - 0.30)= 1,400円

理論価格は、一般的に予想EPS(1株当たり当期純利益)と類似企業のPER(株価収益率)を用いて算出される。ただし、主幹事証券会社が使用した算定根拠は非公開であるため、正確な理論価格を外部から把握することは困難である。

実務上のポイント

  • IPOディスカウントの水準は市況や需給環境により変動するため、上場時期の選定においても考慮すべき要素となる。
  • ディスカウント率が高すぎると発行体の調達金額が減少し、低すぎると株式の消化が困難になるリスクがある。
  • 主幹事証券会社との協議においては、ディスカウント率の根拠について十分な説明を求め、納得のいく水準を設定することが重要である。
  • 初値が公開価格を大幅に上回る場合、結果的に発行体が本来得られたはずの資金調達機会を逸したことになる点に留意が必要である。
  • 資本政策やバリュエーションの検討においては、IPOディスカウントを前提とした上場時時価総額を想定する必要がある。
公正取引委員会による指摘(2022年1月)

公正取引委員会は「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について」において、想定発行価格の設定において、IPOディスカウント等の名目で、考え方を説明することなく、合理的な根拠に基づかずに価格を低く設定することは独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘している。主幹事証券会社は発行体に対し、価格設定の根拠を丁寧に説明することが求められる。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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