2026年7月第4週(7月18日〜7月24日)

CO2排出量見える化のアスエネによるシリーズD135億円をはじめ、2026年7月第4週に国内スタートアップが公表した資金調達7件を整理します。今週は大型ラウンドの「ファーストクローズ」と、既存株主・従業員株式の「セカンダリー(売却)」が同時に目立ち、未上場のまま従業員のストックオプション(SO)を現金化する動きが複数社で表面化しました。

今週の注目の資金調達ニュース

  • アスエネがシリーズDで135億円を調達したと発表しました。リード投資家はBlackRockとTemasekの合弁ファンドDecarbonization Partnersで、同ファンドの日本企業への出資は初めてとされています。うち37億円は既存株主・従業員のセカンダリー取引で、従業員のストックオプション(SO)行使に伴う株式の買い取りを含むと説明されています。なお同種の未上場での従業員SOセカンダリーは、同じ週に検索型FAQのHelpfeelも公表しています(後述)。
  • 自動運転トラックのT2が、シリーズBラウンドのファーストクローズで約50億円を調達したと発表しました。商船三井系のMOL PLUSや住友倉庫など事業会社が名を連ね、累計調達額は165億円超に達しています。
  • 外国人向け生活支援のグローバルトラストネットワークス(GTN)が、第三者割当増資・金融機関借入・株式譲渡を組み合わせた「総取引規模約30億円」のラウンドをファーストクローズしたと発表しました。
  • 音声解析AI「MiiTel」のレブコム(RevComm)が、シリーズBのファーストクローズで33.5億円を調達し、累計調達額は86億円になったと発表しました。
  • 金額が公表されている6件の合計は約252億円で、最大はアスエネのシリーズD135億円でした。

1. 今週のサマリー

対象期間(7月18日〜7月24日)に国内スタートアップが公表した資金調達は7件でした。金額が公表されているのは6件で、その合計は約252億円、最大はアスエネのシリーズD135億円です。福祉型キャッシュレスのKAERUは金額非開示でした。

今週の資金調達で目立ったのは、ミドル〜レイターの大型ラウンドで「セカンダリー」が同時に進んだことです。T2・GTN・レブコムの3件がファーストクローズ(分割クローズの初回)での公表で、いずれも追加クローズを見込む形と読めます。加えて、アスエネの135億円は新株発行(プライマリー)68億円に加え、既存株主・従業員の株式売却(セカンダリー)37億円と金融機関からのデット約30億円を組み合わせた構成と説明されており、資金調達を「新株発行」だけで捉えられない案件が上位を占めました。エクイティとデットの併用は前号でも触れましたが、今週はそこに従業員SOの流動化という論点が加わり、アスエネとHelpfeelの2社が相次いで未上場での従業員SOセカンダリーを公表しました。

2. 今週の注目調達 4社

2-1. アスエネ — シリーズD135億円、注目は「従業員SOセカンダリー」

アスエネは2026年7月23日、シリーズDラウンドで総額135億円を調達したと発表しました。リード投資家は、BlackRockとTemasekの合弁ファンドであるDecarbonization Partnersで、同ファンドによる日本企業への出資は初めてとされています。既存投資家に加え、ダイキン工業やRICOH Innovation Fundなどの事業会社系ファンドも参加し、累計調達額は250億円に達したと説明されています。

注目したいのは調達の中身です。同社は今回の135億円について、新株発行によるプライマリーが68億円、既存株主・従業員による株式譲渡(セカンダリー)が37億円、金融機関からの借入(デット)が約30億円という構成であると説明しています。とりわけ、海外・国内の投資家が「従業員のストックオプション(SO)行使に伴う保有株式を買い取るセカンダリー取引」を実施した点について、「未上場スタートアップとして日本初」と位置づけています。もっとも、未上場段階での従業員SOセカンダリーは、7月21日に検索型FAQのHelpfeelも「未上場スタートアップにおいて国内初」として公表しており(買い手はグロービス・キャピタル・パートナーズ)、両社の「日本初」はそれぞれの定義・調査時点に基づく主張と読むのが正確です。ここでいうセカンダリー取引とは、新たに株式を発行するのではなく、既存の株主や従業員が持つ株式を投資家が買い取る取引を指します。資金使途はM&Aの推進、AI・プロダクト開発、AI人材の採用・育成などとされています。

参考: アスエネ株式会社「アスエネ、米国大手BlackRockの脱炭素ファンドDecarbonization Partnersをリード投資家に、シリーズDで135億円を調達」(2026年7月23日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000726.000058538.html

未上場のまま従業員SOの株式化・現金化を認めるセカンダリーは、IPO前の従業員に流動性を提供する一方で、株主名簿の管理や1株当たり価額の整合、税務上の取り扱いといった論点を伴います。IPO準備の観点では、上場時に整えるべき資本政策と株主管理の実務が、上場前のこの段階から問われる構図になってきたと読めます。

2-2. T2 — シリーズBファーストクローズ50億円、事業会社が主軸

自動運転トラックのT2は2026年7月21日、シリーズBラウンドのファーストクローズとして約50億円を調達したと発表しました。累計調達額は165億円超で、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実現に向けた事業・技術開発に充てると説明されています。同社は「2026年度中にシリーズBの追加クローズを計画」としており、今回はあくまで初回クローズという位置づけです。

引受先はMOL PLUS(商船三井系)、住友倉庫、フジトランスコーポレーション、栗林商船、住友三井オートサービス、大和ハウスベンチャーズ、三井不動産&イノベーションファンドなど、物流・不動産・リースの事業会社系が中心です。

参考: 株式会社T2「シリーズBラウンド 1stクローズで50億円の資金調達を実施 累計額は165億円超に」(2026年7月21日) https://t2.auto/news/2026/0721.pdf

事業会社が株主の多くを占める構成は、実証・商用化フェーズでの事業連携を見込んだものと読めます。IPO準備の局面では、事業会社株主が持つ優先引受権・情報請求権・競業避止などの条項が上場審査や上場後のガバナンスにどう影響するかを、早い段階で資本政策表に落とし込んでおく必要があるといえます。

2-3. グローバルトラストネットワークス(GTN) — 増資・借入・株式譲渡を束ねた「総取引規模30億円」

外国人向け生活支援サービスのグローバルトラストネットワークス(GTN)は2026年7月21日、総取引規模約30億円の資金調達ラウンドをファーストクローズしたと発表しました。同社はこの30億円について、第三者割当増資・金融機関借入・株式譲渡を含む取引であると説明しており、新株発行・デット・セカンダリーを一つのラウンドとして束ねた構成です。リード投資家はグロービス・キャピタル・パートナーズとミネルバ・グロース・パートナーズで、融資は三菱UFJ銀行が実行したと説明されています。資金使途はワンストップサービスの拡充とAIを活用したプラットフォーム開発とされています。

参考: 株式会社グローバルトラストネットワークス「外国人の定着・活躍を支えるGTN、総取引規模約30億円の資金調達ラウンドを実施」(2026年7月21日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000145.000054071.html

「総取引規模」という表記は、純粋な新株発行額(希薄化を伴う調達)と、借入・既存株式の売却を合算した数字である点に注意が必要です。金額の大きさだけを見ると実態を見誤りかねず、IPO準備の資本政策では、このうち希薄化を伴うエクイティ部分がいくらかを切り分けて捉えることが出発点になるといえます。

2-4. レブコム(RevComm) — シリーズBファーストクローズ33.5億円、累計86億円

音声解析AI「MiiTel」を提供するレブコム(RevComm)は2026年7月22日、シリーズBラウンドのファーストクローズで総額33億5,000万円を調達したと発表しました。累計調達額は86億円に達しています。MiiTelは電話・Web会議・対面の会話を自動で録音・文字起こし・解析するサービスで、取引社数は3,000社以上と説明されています。

調達はエクイティとデットの併用で、エクイティはSMBC Edgeをリードに、WiL、KDDI、新生ベンチャーパートナーズ、Salesforce Venturesが参加、デットは福岡銀行とSDFキャピタルが実行したと説明されています。資金使途はAIエージェントの実装、音声AIの基盤強化、海外進出、組織基盤整備とされています。

参考: 株式会社RevComm「レブコム、シリーズBラウンドファーストクローズで33.5億円の資金調達を実施、累計資金調達額は86億円に」(2026年7月22日) https://www.revcomm.com/ja/news/pressrelease/20260722/

事業会社(KDDI・Salesforce Ventures)と金融機関のデットを組み合わせる構成は、希薄化を抑えつつ資金量を確保する狙いと読めます。累計86億円という規模に対し、エクイティとデットの比率、そして今回がファーストクローズである点をあわせて見ると、追加クローズを含めた資金調達計画全体の設計が進んでいる様子がうかがえます。

3. 今週の調達一覧

対象期間に公表された調達7件です(公表日順)。

公表 企業名 事業内容 ラウンド 調達額 主な引受先・出し手
7/21 T2 レベル4自動運転トラックの幹線輸送 シリーズB(ファーストクローズ) 約50億円 MOL PLUS、住友倉庫、フジトランス、栗林商船ほか事業会社系11社
7/21 グローバルトラストネットワークス(GTN) 外国人向け生活支援プラットフォーム 資金調達ラウンド(増資+借入+株式譲渡・ファーストクローズ) 総取引規模約30億円 グロービス・キャピタル、ミネルバ・グロース、三菱UFJ銀行ほか
7/22 レブコム(RevComm) 音声解析AI「MiiTel」 シリーズB(ファーストクローズ) 33.5億円 SMBC Edge(リード)、WiL、KDDI、Salesforce Ventures、福岡銀行ほか
7/22 WAGYU JAPAN 和牛の海外展開 株式投資型クラウドファンディング 約3,000万円 個人投資家(FUNDINNO経由)
7/23 アスエネ CO2排出量見える化クラウド シリーズD 135億円(うちセカンダリー37億円・デット約30億円) Decarbonization Partners(BlackRock×Temasek)ほか
7/23 KAERU 福祉型キャッシュレス決済 資金調達 非開示 秋田銀行系ファンド(あきぎんキャピタル)
7/23 bestat 産業用3Dデータプラットフォーム「3D.Core」 シリーズA 3.1億円 非開示

別表01:各社プレスリリース等の公表情報に基づき作成

調達額やラウンドが非公表の案件も、次回調達時のリリースや投資家側の公表で後日明らかになることがあります。気になる企業があれば、一覧に載った時点でウォッチリストに加えておくと、次の動きを捉えやすくなります。

4. 実務家の視点 — 大型ラウンドの「セカンダリー」は、資本政策に何を迫るのか

注目の論点がセカンダリーです。今週はアスエネに加え、検索型FAQのHelpfeelも未上場段階での従業員SOセカンダリーを公表し、両社がそれぞれ「日本初(国内初)」と位置づけました(Helpfeelは7月21日公表、買い手はグロービス・キャピタル・パートナーズ)。1週間のうちに2社が同種の取り組みを打ち出したことは、未上場での従業員向け流動化が一部の先行事例から広がりつつある兆しと読めます。従業員のSO行使に伴う株式を投資家が買い取る取引は、上場前の従業員に現金化の機会を与える一方で、株主名簿への新規株主の追加、取得価額と譲渡価額の差に対する税務上の取り扱い等の実務を上場前の段階で発生させます。IPO審査では株主の判明性とその適格性が問われるため、セカンダリーで株主が増えるほど、株主名簿・SO台帳・譲渡承認の記録を整えておく重要性が増すといえます。

参考文献・一次資料一覧

各社プレスリリース・公表資料

報道・記事


本記事は、IPO準備に携わる実務家向けに、対象期間に公表された国内スタートアップの資金調達を整理したものです。記載内容は各社の公表資料・報道等に基づいており、事実関係については一次資料をご確認ください。掲載の網羅性を保証するものではありません。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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