補充原則47個が「解釈指針」へ ― 原則26個への再編と、2027年7月末日までの実務対応


この記事でわかること

  • 2026年7月21日に確定したコーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)が、基本原則4個・原則26個に再編され、補充原則が廃止されたこと
  • 補充原則の内容の受け皿として新設された「解釈指針」が、コンプライ・オア・エクスプレインの対象外とされたこと
  • CGコードの改訂がいつから適用され、CG報告書をいつまでに提出すればよいのか。提出期限は2027年7月末日であり、決算期による区分がないこと。総会サイクルに乗らない会社は単発更新で対応できること
  • 開示原則の新旧対応と、廃止された4つの開示原則(サステナビリティ、経営陣への委任範囲、独立性判断基準、役員の兼任状況)
  • 成長投資・有価証券報告書の株主総会前提出・取締役会の機能強化という改訂の主要論点と、IPO準備企業への影響
  • 公表された10本の資料それぞれに何が書かれており、どの順序で読めばよいか
  • 原則主義と細則主義という対比から見た、今回の「スリム化」の持続可能性(筆者の見解)

1. 何が確定したのか ― 2026年7月21日の公表内容

金融庁と東京証券取引所は2026年7月21日、コーポレートガバナンス・コード(コーポレート・ガバナンス・コード、以下「CGコード」といいます)の2026年改訂版を確定・公表しました。2015年の適用開始、2018年・2021年の改訂に続く3回目の改訂にあたります。改訂版は同日から施行されており、東証は「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」と呼称しています。

図表02
2026年改訂の適用スケジュール
2025年10月
金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」が改訂に向けた議論を開始
2026年4月10日
〜5月15日
改訂案のパブリックコメント。147の個人・団体から意見が提出
2026年7月21日
改訂版コードの確定・公表。あわせて改訂の趣旨、パブコメ回答、取締役会の機能強化の事例集2026を公表
2027年7月末日
改訂版コードに沿って更新したコーポレートガバナンス報告書の提出期限。準備ができ次第の提出が求められている
2027年7月末日までの定期更新は、現行コードに沿った更新でも差し支えないとされています。その場合は改訂前のコードに基づく旨を明記したうえで、期限までに改訂後のコードに基づく更新を別途行う必要があります。

図表02:2026年改訂の適用スケジュール(金融庁・東京証券取引所の公表資料に基づき作成)

改訂案は2026年4月10日から5月15日までパブリックコメントに付され、147の個人・団体から意見が提出されました。パブリックコメントの結果概要によれば、コードのプリンシプル化や成長投資の促進という改訂の方向性については賛同意見が大宗であった一方、ガバナンス改革が後退したと誤解されないよう趣旨を周知すべきとの意見も寄せられたとされています。

1-1. いつから適用され、いつまでに対応が必要か

改訂版のCGコードは2026年7月21日から施行されています。上場会社は、これに対応したコーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」といいます)を、準備ができ次第、遅くとも2027年7月末日までに提出する必要があります。この期限は全上場会社に共通で、決算期による区分や段階適用は設けられていません。

図表04
改訂から提出期限までの準備期間
2021年改訂
2021年6月11日施行
2021年12月末日提出期限
約6か月半
2026年改訂
2026年7月21日施行
2027年7月末日提出期限
約12か月
提出期限は全上場会社に共通で、決算期による区分や段階適用は設けられていません。期限までに到来する定時株主総会後の定期更新に折り込むか、総会とは別に単発で更新を提出するかは、各社の判断に委ねられています。

図表04:改訂から提出期限までの準備期間(東京証券取引所の公表資料に基づき作成)

そのうえで、2027年7月末日までの定期更新については現行コードに沿って更新することでも差し支えないとされており、その場合は改訂前のコードに基づいている旨を明記したうえで、期限までに改訂後のコードに基づく更新を別途行うことが求められています。

ここで、CG報告書は定時株主総会後にしか更新できないものではない、という点を確認しておく必要があります。記載事項に変更が生じた場合は随時提出するものであり、株主総会のサイクルとは切り離した単発の更新を出すことが想定されています。(筆者も5月決算の会社のご支援先などもあり、焦りましたが、いったんは現行ベースのCG報告書を出して、その後、然るべきタイミングで新コード対応版CG報告書に差し替えを行うのが実務ですね)

2021年改訂の際も、3月決算会社については、6月の定時株主総会後の例年の更新は改訂前のコードに沿った記載とし、改めて期限までに改訂後のコードを踏まえた更新を行う、という対応が想定されていたとされています。上場会社の多くを占める3月決算会社が、通常の総会後更新とは別に単発で更新を提出したことになります。

したがって、定期更新に折り込むか単発で提出するかは各社の段取りの問題であり、期限が決算期によって前後するわけではありません。たとえば5月決算の会社は次の定時株主総会が2027年8月となり期限の後に来ますが、それまでのいずれかの時点で単発の更新を提出すれば足ります。

1-2. 新しいCG報告書の記載要領はいつ出るのか

もっとも、期限までの期間と、実際に着手できる時期は別の話です。本稿執筆時点で、CG報告書の記載要領は2025年7月版が最新であり、今回の改訂を反映した版は公表されていません。公表時期も示されていません。2021年改訂の際には記載要領の改訂版がコードと同時期に公表されていたため、この点は前回と状況が異なります。

報告書の記載欄への具体的な落とし込みは記載要領の改訂版を待つことになりますが、それまでの間にも、原則の付番の移動の洗い出し、廃止された開示原則の扱いに関する方針の決定、成長投資や経営資源の配分について取締役会でいつ議論するかの日程確保は進められると考えられます。文言の書き換えだけであれば期限直前でも間に合いますが、取締役会での議論を要する部分は前倒しが必要になると思われます。

参考: 金融庁・株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」(2026年7月21日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html

なお、2026年4月10日の改訂案公表時点での論点整理と、市場区分別の適用範囲については、別稿で扱っています。本稿は確定版の内容に基づく解説です。

【2026年改訂】コーポレートガバナンス・コード改訂の解説ー原則83から30へ と削減
2026年4月に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象が基本原則・原則に絞られ、補充原則は非対象の「解釈指針」に置き換わりました。原則数は83個から30個へと大幅に整理されていますが、これは負担軽減ではなく形式的対応の一掃を狙ったものと位置づけられており、丁寧なエクスプレインが求められる構造になっています。原則4-1・4-2では成長投資と経営資源配分の説明・検証が、原則4-14では取締役会事務局の機能強化が明記されました。グロース市場は基本原則のみが対象という枠組みは維持される見込みですが、成長の道筋と資本政策を語れる体制づくりは市場区分を問わず意味を持つと考えられます。上場準備段階からエクスプレインを前提にガバナンスを設計しておくことが、改訂の趣旨に沿った備えになるでしょう。
2026/07/08 | IPO準備実務

2. コードの構造がどう変わったのか

今回の改訂で最も大きい変更は、コードの条文構造そのものが組み替えられた点です。従来の「基本原則・原則・補充原則」の3層構造から、「基本原則・原則」の2層に「解釈指針」を添える構造へと変わりました。

図表01
コードの構造 ― 現行版と2026年改訂版
現行(2021年改訂版)
基本原則C or E5
原則C or E31
補充原則C or E47
考え方対象外
2026年改訂版
基本原則C or E4
原則C or E26
補充原則廃止(再編)
解釈指針新設対象外
「C or E」=コンプライ・オア・エクスプレインの対象。グロース市場上場会社は現行・改訂版とも基本原則のみが対象。第5章(株主との対話)は第1章に統合され、章立ては5章から4章に整理。

図表01:コードの構造 ― 現行版と2026年改訂版(東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について」等に基づき作成)

2-1. 基本原則5個→4個、原則31個→26個、補充原則47個は廃止

現行コードは基本原則5個・原則31個・補充原則47個で構成され、いずれもコンプライ・オア・エクスプレインの対象とされていました。改訂版では基本原則4個・原則26個となり、補充原則という区分は姿を消しています。

基本原則が1つ減ったのは、第5章「株主との対話」が第1章「株主の権利・平等性の確保」に統合されたためです。従来の原則5-1(株主との建設的な対話)は、改訂版では原則1-1として第1章の先頭に置かれています。章立ても5章から4章に整理されました。

改訂版コード本文では、この再編について、上場会社が特に注力すべき点が明確になるよう従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、コード内の他の箇所または法令等との重複がある箇所等を削除したものと説明されています。

2-2. 「解釈指針」とは何か

解釈指針とは、各原則の背景となる考え方や目的、原則を履行するためのベストプラクティス・グッドプラクティスと考えられる方策を記載した、コンプライ・オア・エクスプレインの対象外の記述を指します。改訂版コードでは、すべての基本原則と一部の原則に解釈指針が付されています。

ここが実務上の分岐点になります。これまで補充原則としてコンプライ・オア・エクスプレインの対象だった具体的な記述の多くが、解釈指針に移されました。たとえば取締役会の実効性評価におけるスキル・マトリックスの開示、独立社外取締役のみを構成員とする会合の定期開催、筆頭独立社外取締役の決定といった記述は、いずれも解釈指針側に置かれています。

もっとも、改訂版コード本文は、解釈指針に移管された記載や削除された記載について、その重要性が失われたと考えることは適切ではないと明記しています。あわせて、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することはコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反するとし、単にコンプライとするのではなく、具体的な取組みの内容と原則を実施していると評価できる合理的理由を示すことも望ましいとされました。記載量が減ること自体を目的とした対応は、改訂の趣旨に沿わないものと考えられます。

参考: 金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)」(2026年7月21日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/01.pdf


3. 改訂の背景 ― なぜ「スリム化」なのか

今回の改訂は、規律の緩和ではなく「コードの実質化」を狙いとしたものと位置づけられています。

改訂の趣旨(「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」)は、ガバナンス改革に一定の進捗が見られる一方、形式的な対応にとどまらない改革の実質化が重要であるとの指摘を出発点としています。そのうえで、企業が中長期的な価値向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しする観点から、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、解釈指針を新設したと説明されています。

改訂版コード本文にも、プリンシプル化・スリム化は上場会社の対応コスト・開示負担の軽減のみを意図しているわけではない旨が明記されました。あわせて序文が新設され、原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであってもその理由を丁寧に説明することが、投資家との建設的な対話に資すると考えられることが示されています。

参考: 金融庁・株式会社東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2026年7月21日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/03.pdf


4. 実務上のポイント

図表03
2026年改訂の主な内容
経営資源の配分
原則4-1・4-2
成長の道筋の構築を取締役会の役割・責務として追記。成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産)や事業ポートフォリオの見直しについて、具体的に何を実行するのかを説明すべきことを強調。経営資源の配分が経営戦略に照らし適切かを不断に検証すべきことを追記
取締役会の機能強化
原則4-8〜4-14
独立社外取締役の役割・責務、質、数、独立性の確保を原則単位に分節。取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を解釈指針に追記。リスク管理体制の考慮事項にサイバーセキュリティリスク、地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクを例示
有価証券報告書の
株主総会前開示
原則1-2
株主総会前の有価証券報告書提出を、権利行使に係る環境整備の重要な例として原則に明記。解釈指針で、総会開催日の3週間以上前の提出が最も望ましく、総会開催日や基準日の後ろ倒しも含めた検討が考えられる旨を補足
ステークホルダーとの
適切な協働
基本原則2
株主以外のステークホルダーとの協働の例として、人的資本への投資や適切な分配、取引先との公正・適正な取引(サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む)を解釈指針に追記

図表03:2026年改訂の主な内容(金融庁「コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要」等に基づき作成)

4-1. 開示原則の再編と、廃止された4つの開示項目

コーポレートガバナンス報告書の作成実務に最も直接的に効いてくるのが、開示原則の組み替えです。原則の番号が動いているため、現行の報告書をそのまま流用することができません。

開示項目 現行 改訂後
株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針 原則5-1 原則1-1
政策保有に関する方針、保有の適否に関する検証内容、議決権行使基準 原則1-4 原則1-4
多様性の確保についての考え方・目標・状況、人材育成方針等 補充原則2-4① 原則2-2
企業年金の運営を支える人事面・運営面における取組み 原則2-6 原則2-4
経営理念・経営計画、ガバナンスの基本的な考え方、報酬・指名の方針と手続等 原則3-1 原則3-1
関連当事者間の取引における適正な手続・その枠組み 原則1-7 原則4-3
委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等(プライム市場 補充原則4-10① 原則4-7
取締役の有するスキル等の組み合わせ 補充原則4-11① 原則4-13
取締役会全体の実効性評価の概要 補充原則4-11③ 原則4-13
個々の取締役・監査役に適合した研鑽の方針 補充原則4-14② 原則4-15

別表01:開示原則の新旧対応(東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について」に基づき作成)

このほか、サステナビリティについての取組み等(補充原則3-1③)、経営陣に対する委任の範囲の決定と概要の開示(補充原則4-1①)、独立社外取締役の独立性判断基準(原則4-9)、取締役・監査役の兼任状況(補充原則4-11②)の4つの開示原則が廃止されています。

ただし、廃止された開示原則の中身が実務上不要になったわけではありません。サステナビリティについては改訂版の原則4-5が取締役会に基本的な方針の策定を求めており、独立性判断基準についても原則4-11が取引所の独立性基準を踏まえた基準の策定を求めています。開示原則から外れたことと、対応が不要になったことは別の話です

なお、開示原則の文言自体も見直されているため、番号の付け替えだけで済ませず、改訂後の原則の文言に照らして記載内容を確認する必要があります。

4-2. 成長投資と経営資源の配分

改訂の中心テーマは、原則4-1・4-2に置かれた成長投資と経営資源の配分です。

原則4-1は、取締役会の役割・責務として、会社の目指すところ(経営理念等)を確立しそれに向けた成長の道筋を構築することを追記しました。そのうえで、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し、具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきものとされています。

原則4-2では、取締役会が、自社の経営資源の配分が経営戦略・経営計画に照らし適切なものとなっているかについて不断に検証を行うべきことが追記されました。解釈指針では、検証の対象として現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかが例示されています。

改訂の趣旨では、現預金の保有が常に否定されるものではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて適正な水準を保有することも経営資源の配分の一環として考えられる、との留意点が示されています。パブリックコメントでは企業の裁量に任せるべきとの意見と詳細な説明・開示を求めるべきとの意見の双方が寄せられたとされており、この論点は今後の実務の蓄積を待つ部分が大きいと考えられます。

4-3. 有価証券報告書の株主総会前提出はいつから求められるのか

改訂版の原則1-2は、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の例として、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することを明記しました。解釈指針では、有価証券報告書は本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと考えられるとし、そのために株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討する、とされています。

もっとも、改訂の趣旨では、金融庁自身が、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識を示しています。そのうえで、法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討を並行して進めるとされました。

したがって原則1-2は、3月決算・6月総会という現在の実務を直ちに組み替えることを求めるものではなく、制度的手当てと並行して段階的に対応が進む論点と受け止めるのが実際的だと思われます。

4-4. 取締役会の機能強化 ― 独立社外取締役と取締役会事務局

改訂版では、独立社外取締役に関する規律が原則単位に分節されました。原則4-8が役割・責務、原則4-9が質の確保、原則4-10が数の確保、原則4-11が独立性の確保、原則4-12が機能発揮という構成です。原則4-8には、経営陣の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ経営の監督を行うことが役割・責務の筆頭として掲げられました。

数の要件は現行から変わっていません。プライム市場上場会社は3分の1以上、その他の市場の上場会社は2名以上で、支配株主を有する場合の上乗せ(プライム市場では過半数)も維持されています。パブリックコメントでは水準の引上げを求める意見も寄せられたとされていますが、改訂版では据え置かれました。

実務担当者にとって新しいのは、原則4-14の解釈指針に置かれた取締役会事務局に関する記述です。取締役会を支えるいわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化等の取組みを推進することが重要であるとされ、会議運営を行う単なる事務方としての役割にとどまらず、会議体の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど運営を能動的に行うことが望ましいとされました。独立社外取締役が議長を務める場合や社外取締役の占める割合が高い場合には、事務局が果たす機能が特に大きくなると考えられる旨も付記されています。

リスク管理についても、原則4-4の解釈指針で、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクへの対応がリスク管理体制を整備する際の考慮事項に含まれ得ることが示されました。


5. IPO準備企業が今から準備すべきこと

新規上場申請会社は、上場時にCG報告書を提出します。上場のタイミングによっては、最初に作成する報告書から改訂版コードに対応することになります。ひな型として参照する既上場会社の報告書が改訂前後で混在する期間が生じるため、参照元がどちらのコードに基づくものかを確認する必要があります。

市場区分による適用範囲は改訂後も変わりません。グロース市場上場会社にコンプライ・オア・エクスプレインが求められるのは基本原則のみで、プライム市場スタンダード市場の上場会社は原則までが対象となります(プライム市場向けの上乗せ部分を含む)。グロース市場を目指す会社にとって直接の記載負担は限定的ですが、基本原則が5個から4個に減り、各基本原則に解釈指針が付されたことで、参照すべき文書の構造は変わっています。

実務対応として優先度が高いと考えられるのは、次の3点です。

第一に、開示原則の対応関係の洗い直しです。原則の番号が動いており、現行の報告書の記載をそのまま移すことはできません。特に、関連当事者間の取引に関する開示が第1章から第4章(原則4-3)へ、多様性に関する開示が補充原則2-4①から原則2-2へ移っている点は見落としやすい部分だと思われます。

第二に、成長投資と経営資源の配分に関する説明の準備です。原則4-1が求める「成長の道筋」と、それを踏まえた成長投資・事業ポートフォリオについて具体的に何を実行するのかの説明は、上場審査における事業計画の合理性の説明や、Ⅰの部・成長可能性に関する説明資料の内容と重なります。上場後のコーポレートガバナンス報告書と、上場申請時に説明した成長戦略が整合しているかは、審査段階から意識しておく価値があると考えられます。

第三に、社外取締役の質に関する説明の整理です。原則4-9の解釈指針は、取締役会が、どのような人物が会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する形で役割・責務を果たすことができるかを検討し、必要な識見・能力等の資質に関する基準を策定することも考えられるとしています。上場審査では社外役員の選任理由と実効性が確認されますが、頭数を揃えるだけでなく、なぜその人物なのかを説明できる状態にしておく必要性は、改訂後のコードでも変わらないと考えられます。

あわせて公表された「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」は、上場会社の実際の取組み例を収集したものとされており、体制設計の検討材料として参照できると思われます。

市場区分ごとの適用範囲の詳細と、改訂案の段階でどのような論点が指摘されていたかについては、別稿をご参照ください。

【2026年改訂】コーポレートガバナンス・コード改訂の解説ー原則83から30へ と削減
2026年4月に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象が基本原則・原則に絞られ、補充原則は非対象の「解釈指針」に置き換わりました。原則数は83個から30個へと大幅に整理されていますが、これは負担軽減ではなく形式的対応の一掃を狙ったものと位置づけられており、丁寧なエクスプレインが求められる構造になっています。原則4-1・4-2では成長投資と経営資源配分の説明・検証が、原則4-14では取締役会事務局の機能強化が明記されました。グロース市場は基本原則のみが対象という枠組みは維持される見込みですが、成長の道筋と資本政策を語れる体制づくりは市場区分を問わず意味を持つと考えられます。上場準備段階からエクスプレインを前提にガバナンスを設計しておくことが、改訂の趣旨に沿った備えになるでしょう。
2026/07/08 | IPO準備実務

参考: 金融庁「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」(2026年7月21日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/10.pdf


6. 公表された資料の構成 ― どれに何が書かれているか

2026年7月21日の公表は、確定版のコード本文を含めて10本のPDFで構成されています。実務で参照する頻度が高い順に整理すると、次のとおりです。

資料 内容 実務での使いどころ
別紙1 コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版) 確定版の本文。原則と解釈指針の全文。最終的な文言確認はここで行う
別紙2 改訂前からの変更点 現行版との対照版。付番の移動と文言の変更を追跡する用途
別紙3 成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について 改訂の趣旨と留意事項。適用時期(2027年7月末日)の記載もここ
別紙4 コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要 1枚もの。改訂の全体像を短時間で把握する用途
別紙5 パブリックコメントの結果概要 寄せられた意見の傾向。論点ごとの賛否の分布
別紙6 改訂案に対するご意見の概要及びそれに対する考え方 個別論点に対する当局の考え方。原則の解釈に迷った際の手掛かりになる
参考1-1〜1-3 上場会社の経営者、上場会社の担当者、スチュワードシップ・コード署名機関それぞれに向けたメッセージ 対象者別に改訂の受け止め方を示したもの
参考2 取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026 上場会社の実際の取組み例。体制設計の検討材料

別表02:2026年7月21日に公表された資料の構成(金融庁の公表ページに基づき作成)

このほか、東京証券取引所が2026年4月10日のパブリックコメント時に公表した「コーポレートガバナンス報告書の更新について」には、コーポレートガバナンス報告書の記載欄をどう更新するかの説明と、開示原則の新旧対応表が収録されています。報告書の実際の書き換え作業では、この資料が最も直接的に役立つと思われます。

参考: 金融庁・株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」(2026年7月21日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html 参考: 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について」(2026年4月10日) https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/t13vrt000000sodn-att/t13vrt000000xny7.pdf


7. 原則主義は維持できるのか ― 筆者の見立て

会計基準の世界には、原則主義と細則主義という対比があります。基準の目的と原則を示して判断を作成者に委ねるか、適用要件を具体的に定めるか、という違いです。筆者は会計士なので今回の改訂もこの枠組みで眺めてしまうのですが、経験上、原則主義を掲げた枠組みが抽象度を保ち続けることは容易ではないと感じています。

具体化を求める圧力は、基準を作る側よりも、それを適用する側から生じます。作成者はどこまでやれば足りるのかを知りたい。検証する立場の者は、判断の当否を後から説明できる拠り所を必要とする。この需要がある限り、答えは何らかの形で供給されていきます。

CGコードの10年も、似た経路を辿ったように見えます。2015年の適用開始時点でプリンシプルベース・アプローチが明示されていたにもかかわらず、2018年・2021年の改訂を経て補充原則は47個まで増え、スキル・マトリックスのような具体的な手法名が条文に書き込まれました。手法名が条文にある以上、それを実施しているかどうかが実質的な判定基準になります。今回の改訂の趣旨が形式的な対応からの脱却を掲げているのは、この状態への反省だと考えられます。

とすると、条文構造を組み替えただけで同じことが起きないと考える理由は乏しいと思われます。解釈指針は形式上コンプライ・オア・エクスプレインの対象外ですが、投資家との対話や上場審査の場でそこに沿った対応の有無が問われるようになれば、位置づけが変わっただけということになりかねません。パブリックコメントでガバナンス改革の後退と誤解されないようにという意見が出たこと自体、解釈指針に一定の実効性が期待されている表れだと受け止めています。

分けるのは、読む側の運用だと考えています。横並びの記載を評価する運用が続く限り、解釈指針は事実上の要求事項に変わっていきます。今回の改訂は、書く側だけでなく読む側が試される改訂でもあると思われます。


8. 結び

今回の改訂は、条文の分量が減りコンプライ・オア・エクスプレインの対象が狭まった点だけを見れば、負担の軽減に見えます。ただし改訂版コード本文と改訂の趣旨は、いずれも対応コストの軽減のみを意図したものではないと明記しています。条文が抽象化されたぶん、各社が自社の言葉で説明する部分が増えたと整理するのが実態に近いと考えられます。

まず着手すべきは、現行のCG報告書を改訂後の原則番号に対応させる棚卸しと、廃止された4つの開示原則に関する記載を今後どう扱うかの判断です。2027年7月末日までという期間は、記載の書き換えだけを行うには十分ですが、取締役会での議論を経て説明の中身を組み替えるには、それほど長くはないと考えられます。


参考文献・一次資料一覧

政府・公的機関

東京証券取引所・日本取引所グループ


本記事は、IPO準備に携わる実務家向けに、コーポレートガバナンス・コード2026年改訂の内容と実務上の論点を整理したものです。記載内容は公表資料に基づいており、事実関係については一次資料をご確認ください。

IPO支援サービス

IPOに精通した公認会計士の力で
あなたの会社のIPOを成功に導きます

株式会社プライムコンサルティングは、IPOを支援する専門家集団です。
監査法人・主幹事証券の立場からIPOを一貫して支援してきた実績を基に伴走します。

無料 まずは相談してみる

オンライン相談対応

執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

IPO準備についてのご相談を承ります

初回相談無料・オンライン対応可

お問い合わせ