基本定義

事前相談とは、上場申請前の上場準備作業において、審査基準に関する疑問点や審査上の問題点に対する対処方法の適否等について、証券取引所に相談し見解を得るための手続のことをいいます。通常は主幹事証券会社を経由して取引所に相談を行います。

上場準備作業は長期にわたり、会社経営に与える影響も大きいことから、証券取引所は上場申請前の段階でも相談を受け付け、会社が円滑に上場準備を進められるよう配慮しています。

「事前相談」の2つの意味

上場準備の実務において「事前相談」という用語は、文脈により以下の2つの意味で使用されます。

意味1
証券取引所への事前相談
上場準備段階において、審査基準や上場制度に関する疑問点を東証に確認するための相談。主幹事証券会社を経由して行う。
意味2
財務局への事前相談
有価証券届出書の内容について財務局担当者へ確認するための相談。上場承認予定日の約1ヶ月前に実施する。

本ページでは、主に証券取引所への事前相談について解説します。

手続の概要

実施時期 上場準備期間中(随時)
相談窓口 東京証券取引所 上場推進部(必要に応じて上場審査部)
相談方法 主幹事証券会社が事前相談資料を作成し、メールで送付のうえミーティングを実施
参加者 主幹事証券会社、上場推進部(または上場審査部)
回答元 上場推進部または上場審査部

事前相談の進め方

1
事前相談資料の作成
主幹事証券会社が中心となり、相談事項・論点・会社の見解等をまとめた事前相談資料を作成する。上場準備会社は資料の作り込みに協力することが重要。
2
資料の送付
主幹事証券会社から上場推進部(または上場審査部)へメールで事前相談資料を送付する
3
ミーティングの実施
主幹事証券会社と上場推進部(または上場審査部)との間でミーティングを行い、取引所の見解を確認する
4
結果の共有
主幹事証券会社から上場準備会社へ、取引所の見解をフィードバックする

相談先:上場推進部と上場審査部

事前相談の窓口は、相談内容の性質により段階的に対応が分かれます。

第1段階 東証 上場推進部

事前相談はまず上場推進部に対して行います。上場制度や審査基準に関する一般的な疑問点については、基本的に上場推進部への相談で完結します。

上場推進部の判断により必要と認められた場合
第2段階 JPX 上場審査部

上場推進部への相談の結果、上場審査部にも見解を確認した方がよいと判断された場合は、次の段階として上場審査部への相談を行います。

上場審査部への相談が必要となる主なケース

  • 上場推進部と上場審査部で見解が分かれる可能性がある論点
  • 重要な上場審査上の論点に関する事項

事前相談の活用場面

証券取引所への事前相談は、主に以下のような場面で活用されます。

上場制度への適合性確認
形式基準に定められた項目について、自社の状況が基準を満たしているか不安がある場合に、東証に最終確認をする目的で活用します。
例:独立役員の独立性基準への抵触可能性がある場合、「独立役員届出書」の案を用意のうえ事前相談を行う
主幹事証券会社との意見相違
主幹事証券会社からの指摘や要請について、会社側と意見の食い違いが生じた場合に、取引所の見解を確認することで双方が納得して準備を進められるようにします。
例:関連当事者取引の解消範囲について証券会社と認識が異なる場合
審査上の問題点への対処方法
上場審査において問題となりそうな事項について、会社が検討している対処方法が適切かどうかを事前に確認します。
例:親会社等からの独立性確保のための施策が十分かどうか

相談時の留意点

1
事前相談資料の作り込みが重要
上場準備会社は主幹事証券会社と協力し、論点を明確にした質の高い資料を作成することで、取引所から的確な見解を得やすくなる
2
ミーティングへの上場準備会社の同席
基本的には主幹事証券会社と取引所間で行われるが、稀に上場準備会社が同席する事例もある
3
回答元の確認
回答は上場推進部または上場審査部から得られる。どちらの部署からの見解かを明確に把握しておくことが重要
4
回答は見解であり確約ではない
事前相談での回答は取引所の見解であり、上場承認を確約するものではない点に留意が必要

類似用語との違い

事前相談

上場準備期間中、随時実施可能。審査基準や制度に関する疑問点、対処方法の適否について取引所の見解を確認する。主幹事証券会社経由で行う。

事前確認

上場申請の1週間前までに実施。主幹事証券会社と取引所間で、引受審査の概要説明や審査日程の確認を行う正式な手続。申請会社は関与しない。

財務局への事前相談

上場時にファイナンスを行う場合、有価証券届出書を財務局へ提出する必要があります。この届出書の内容について財務局担当者へ確認するための相談も「事前相談」と呼ばれます。

実施時期 上場承認予定日の約1ヶ月前
相談先 管轄の財務局(関東財務局等)
必要書類 財務局指定の「日程表等」フォーマット
同席者 初回は主幹事証券会社の公開引受部門担当者が同席することが多い

実務上のポイント

  • 事前相談資料の質が、取引所から得られる見解の的確さを左右します。論点を明確にし、会社の状況や対処方針を分かりやすくまとめた資料を主幹事証券会社と協力して作成しましょう。
  • 相談はまず上場推進部に行い、その回答で解決できるかを確認します。上場審査部への相談が必要かどうかは上場推進部が判断するため、最初から上場審査部に直接相談することは通常ありません。
  • 上場審査部から得た見解は、実際の上場審査を担当する部署の判断であるため、より確度が高いといえます。重要な論点については、上場審査部の見解を得ておくことが望ましい場合があります。
  • ミーティングの結果は主幹事証券会社からフィードバックを受けます。どの部署から得た見解か、どのような前提条件での回答かを明確にし、関係者間で共有しておきましょう。
  • 事前相談での回答は取引所の見解であり、上場承認を確約するものではありません。相談時点からの状況変化により、審査時に異なる判断がなされる可能性もある点に留意が必要です。
ポイント

事前相談の成否は、事前相談資料の作り込みにかかっています。上場準備会社は主幹事証券会社任せにせず、論点整理や会社の見解の明確化に積極的に協力しましょう。質の高い資料を準備することで、取引所から的確な見解を引き出すことができます。

注意

上場推進部で得た見解と上場審査部で得た見解は、区別して管理することが重要です。特に重要な論点については、最終的に上場審査を行う上場審査部の見解を確認しておくことで、審査段階での想定外の指摘を防ぐことができます。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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