基本定義

株式分割とは、すでに発行されている株式を一定の比率で細分化し、発行済株式数を増加させる手続きのこと。1株を複数株に分けることで、1株あたりの価値は分割比率に応じて低下するが、株主が保有する株式の総価値および持株比率には変動が生じない。

株式分割は主に、株式の流動性向上や投資単位の引下げを目的として実施される。IPOを目指す企業においては、上場時に東証が示す「望ましい投資単位」を満たすため、上場申請前に株式分割を行うことが一般的となっている。

手続きの概要

決議機関 取締役会(取締役会非設置会社は株主総会)
根拠法令 会社法第183条
決議事項 分割比率、基準日、効力発生日
株主総会決議 原則不要(発行可能株式総数の変更を伴う場合も不要)
登記事項 発行済株式総数の変更(効力発生日から2週間以内)
IPOでの実施時期 上場申請前(遅くとも申請中)

株式分割の仕組み

株式分割により発行済株式数は増加するが、会社の企業価値そのものは変動しない。そのため、1株あたりの数値(株価、配当、利益等)は分割比率に応じて調整される。

1:5の株式分割を行った場合
分割前
発行済株式数:10,000株 / 1株あたり株価:50,000円
株主Aの保有:1,000株(持株比率10%)
分割後
発行済株式数:50,000株 / 1株あたり株価:10,000円
株主Aの保有:5,000株(持株比率10%)

このように、株主の持株比率は変わらず、保有株式の時価総額も理論上は同一となる。ただし、実務上は分割発表後に投資家の期待感から株価が上昇するケースも見られる。

手続きの流れ

取締役会設置会社における株式分割の一般的な手続きは以下のとおり。

分割比率・スケジュールの検討
想定株価と望ましい投資単位を踏まえて設計
取締役会決議
分割比率、基準日、効力発生日を決議
基準日公告
基準日の2週間前までに公告
基準日
この日の株主名簿上の株主に新株を割当て
効力発生日
分割の効力が発生
変更登記申請
効力発生日から2週間以内

東証の「望ましい投資単位」

東京証券取引所は、個人投資家が投資しやすい環境を整備する観点から、上場会社に対して投資単位(100株あたりの購入金額)の目安を示している。

上限(努力義務) 50万円未満
下限 2023年10月に撤廃(旧:5万円以上)
個人投資家のニーズ 10万円程度(東証アンケート調査)
開示義務 50万円以上の場合、投資単位引下げの考え方・方針等を開示
2025年4月の東証報告書

東証は「少額投資の在り方に関する勉強会報告書」において、投資単位の目安を10万円程度に引き下げるよう上場会社に要請する方針を示した。新NISAの開始を受け、若年層を含む幅広い投資家層の参入促進を図る狙いがある。

IPO準備における株式分割

上場を目指す企業にとって、株式分割は投資単位を適正水準に調整するための重要な資本政策手法となる。

1
実施時期は上場申請前が基本
想定公募価格に基づく投資単位が50万円を超える見込みの場合、上場申請前に分割を完了させる。遅くとも審査期間中には実施する必要がある。
2
分割比率の決定
想定株価から逆算し、投資単位が10〜50万円程度(できれば10〜20万円程度)に収まるよう分割比率を設計する。
3
発行可能株式総数の確認
分割後の発行済株式総数が発行可能株式総数を超えないよう確認。超える場合は定款変更が必要だが、分割に伴う増加は株主総会決議なく可能(会社法184条2項)。
4
ストックオプション等への影響
新株予約権の行使価額・株式数は分割比率に応じて調整される。発行要項に調整条項が定められているか確認が必要。

株式分割と株式併合

株式分割

1株を複数株に細分化する手続き。発行済株式数が増加し、1株あたりの価値は低下する。株式の流動性向上や投資単位引下げが主な目的。取締役会決議のみで実施可能。

株式併合

複数株を1株に統合する手続き。発行済株式数が減少し、1株あたりの価値は上昇する。端数株主が生じる可能性があるため、株主総会の特別決議が必要となる。

株式分割の効果

  • 投資単位の引下げにより、個人投資家が参入しやすくなる
  • 株式の流動性が向上し、売買が活発化する傾向がある
  • 株主層の多様化により、大幅な株価下落時の変動が抑制される可能性がある
  • 分割前と同額の配当を維持した場合、実質的な増配となる
  • NISA等の投資枠内で購入可能となり、投資家の裾野が広がる
注意:分割は企業価値を高めるものではない

株式分割はあくまで株式の細分化であり、会社の本質的な価値(時価総額)を増加させるものではない。分割発表後に株価が上昇することがあるが、これは投資家の期待によるものであり、分割そのものが価値を創出するわけではない点に留意が必要。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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