基本定義

事業計画及び成長可能性に関する事項とは、東証グロース市場および名証ネクスト市場に上場する会社が開示を求められる資料であり、投資者に合理的な投資判断を促す観点から、ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、事業計画、リスク情報等を継続的に開示するものである。

グロース市場は高い成長可能性を有する企業向けの市場であるが、事業実績の面から相対的にリスクが高い。そのため、投資者が企業の成長ストーリーを理解し、適切な投資判断を行えるよう、本資料の開示が義務付けられている。

開示の概要

対象市場 東証グロース市場、名証ネクスト市場
開示目的 投資者に合理的な投資判断を促す
初回開示 新規上場日当日(上場申請時にドラフト提出)
継続開示 1事業年度に1回以上(事業年度経過後3ヶ月以内)
臨時開示 事業計画の見直し・事業内容の大幅変更時に速やかに開示
開示方法 TDnet(適時情報伝達システム)にてPDF形式で開示
ファイル上限 10MB

記載項目

本資料には以下の5項目について、グラフや図表等を用いてわかりやすく記載することが求められる。

1
ビジネスモデル
事業の内容、製商品・サービスの特徴、収益・費用構造、事業ごとの寄与度等
2
市場環境
ターゲット市場の規模、競合環境、自社のポジショニング、シェア等
3
競争力の源泉
成長ドライバーとなる技術・知的財産、ノウハウ、ブランド、人材等の経営資源と競争優位性
4
事業計画
成長戦略、経営指標(KPI)、利益計画及び前提条件、進捗状況等
5
リスク情報
成長の実現や事業計画の遂行に重要な影響を与える可能性のある主要なリスク

各項目の記載内容

項目 主な記載内容
ビジネスモデル 製商品・サービスの内容・特徴、事業ごとの寄与度、今後必要となる許認可等の内容やプロセス、収益・費用構造、キャッシュフロー獲得の流れ、収益構造に重要な影響を与える契約内容
市場環境 具体的な市場(顧客の種別、地域等)の内容及び規模、競合の内容、自社のポジショニング、シェア等
競争力の源泉 成長ドライバーとなる技術・知的財産、ビジネスモデル、ノウハウ、ブランド、人材等の経営資源と、それらの競争優位性の分析
事業計画 経営方針・成長戦略、実現するための具体的施策(研究開発、設備投資、マーケティング、人員、資金計画等)、経営上重視する指標とその採用理由、実績値、目標値、進捗状況
リスク情報 成長の実現や事業計画の遂行に重要な影響を与える可能性があると認識する主要なリスク(有価証券報告書のリスク情報との整合性に留意)

開示のタイムライン

新規上場時および上場後の継続開示における主要なタイミングは以下のとおり。

上場申請時
ドラフト版を東証に提出、審査対象となる
上場承認日
上場承認の公表
上場日
TDnetにて正式版を開示、投資者が閲覧可能
事業年度終了後3ヶ月以内
進捗状況を反映した最新版を開示(年1回以上)
重要な変更発生時
事業計画見直し・事業内容の大幅変更時に速やかに開示

類似資料との違い

ロードショーマテリアル

機関投資家向けのプレゼンテーション資料。口頭での補足説明が前提のため、簡潔な記載が許容される。非公開で特定の投資家のみが閲覧。

事業計画及び成長可能性に関する事項

TDnetで公開され個人投資家を含む幅広い層が閲覧。口頭補足なしで理解できる詳細な記載が必要。継続的な更新義務あり。

中期経営計画

任意開示の経営計画資料。本資料と別途開示する場合は整合性の確保が重要。本資料に含めて作成・開示することも可能。

制度の沿革

本制度は2022年4月4日の市場区分再編に伴い導入された。従前の制度では、東証マザーズ上場会社には「投資に関する説明会の開催義務」、JASDAQグロース上場会社には「中期経営計画の策定義務」が課されていたが、これらを「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示に一本化した形となっている。

また、2020年11月1日以降の上場申請会社からは、開示内容が拡充されるとともに「成長可能性に関する説明資料」から現在の名称に変更され、上場申請書類の一つとして東証の審査対象となった点が重要な変更点である。

実務上のポイント

  • グラフや図表を効果的に活用し、初見の投資者でも事業内容を理解できる資料構成を心がける
  • 難解な専門用語や社内特有の用語は避け、必要に応じて用語集を作成する等の配慮が望ましい
  • 経営指標(KPI)は継続的に測定可能な指標を選定し、時系列での推移を示す
  • 計画と実績の乖離が生じている場合は、その理由と今後の対応策を丁寧に説明する
  • 市場規模について自社独自の推定を用いる場合は、推定の根拠と方法を明示する
  • 有価証券報告書のリスク情報との整合性を確保し、重複がある場合は適切に参照する
  • 決算説明会資料に含めて作成・開示することも可能(その旨を資料内に明記)
  • 次回開示予定時期を資料内に記載し、開示頻度の方針があれば合わせて記載する
注意

本資料は上場申請書類の一つとして東証の審査対象となる。単なるIR資料ではなく、記載内容の正確性・実現可能性について審査が行われるため、過度に楽観的な記載や根拠のない数値計画は避け、客観的事実に基づく具体的な記載を行う必要がある。また、競争優位性については、その獲得・維持の見込みを客観的な事実を踏まえて説明することが特に重要とされている。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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