3点セットとは、J-SOX制度において業務プロセスに係る内部統制を文書化する際の基本的な3つの文書の総称。フローチャート(業務の流れ図)、業務記述書(業務の詳細説明)、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)から構成され、内部統制の整備状況を可視化し、評価の基礎資料となる。

3点セットの概要

目的 業務プロセスに係る内部統制の整備状況を文書化し、評価・監査の基礎資料とする
構成要素 フローチャート、業務記述書、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)
作成単位 業務プロセス単位(販売プロセス、購買プロセス、在庫管理プロセス等)
作成主体 各業務プロセスの担当部門(内部統制推進部門が支援)
更新頻度 業務プロセスに変更があった場合、および年度末の評価時に見直し

3つの文書の関係

3点セットを構成する各文書は相互に関連しており、整合性を保つ必要がある。

フローチャート(業務流れ図)

業務の流れを視覚的に表現。全体像の把握に適する。業務記述書の内容を図式化したもの。Ⅱの部・各種説明資料の添付書類となる。

業務記述書(ナラティブ)

業務の詳細を文章で説明。フローチャートでは表現しきれない判断基準や例外処理等を補完する。

RCM

リスクと統制の対応関係を明示。統制の種類(予防的/発見的、IT統制/手作業統制)や実施頻度を整理する。

フローチャート(業務流れ図)

概要と目的

別称:業務流れ図、業務フローチャート、Business Process Flow Diagram

業務プロセスの流れを図式化した文書。取引の開始から財務諸表への計上までの一連の流れを、関係する部門・担当者、使用するシステム・帳票とともに視覚的に表現する。業務の全体像を俯瞰的に把握できるため、プロセスの理解や問題点の発見に有効。

上場審査書類との関連

Ⅱの部「Ⅺ.添付書類について」の「(17)事務フロー」、および各種説明資料(グロース市場)「1.事業の内容について」の「(5)事務フローについて」において、主な事務フローの図解が求められる。「内部統制報告制度への対応等で作成したフローチャート等で差し支えない」とされており、J-SOX対応で作成したフローチャートを活用できる。

主な記載項目

項目内容
部門・担当者業務に関係する部門(営業部、経理部等)をスイムレーン形式で表示
業務活動各ステップで行われる作業内容を記号と説明文で表示
帳票・証憑使用される帳票、証憑書類(注文書、請求書等)を明示
システム使用する情報システム(基幹システム、会計システム等)を表示
統制ポイント内部統制が実施される箇所を特定の記号(C等)で明示

使用する主な記号

記号名称用途・説明
処理(プロセス) 業務処理や作業を表す。最も基本的な記号
判断(分岐) 条件分岐や承認の判断ポイントを表す
書類(帳票) 伝票、帳票、証憑書類等を表す
データ システムへの入力・出力データを表す
端子(開始・終了) プロセスの開始点・終了点を表す
結合子 フローの接続点。ページをまたぐ場合等に使用

業務記述書(ナラティブ)

概要と目的

別称:ナラティブ(Narrative)、業務プロセス記述書

業務プロセスの内容を文章で詳細に説明した文書。フローチャートでは表現しきれない業務の詳細、判断基準、例外処理等を記載する。業務担当者以外の第三者が読んでも業務内容を理解できる程度の詳細さが求められる。

上場審査書類との関連

Ⅱの部およびグロース市場の各種説明資料において求められる事務フローの図解の基礎資料となる。また、一連の取引に関するフローごとの帳票サンプル(実際の事例が記入されたもの)の添付が必要であり、業務記述書に記載された帳票類がこれに該当する。

主な記載項目

項目内容
プロセス番号業務ステップを識別するための番号(フローチャートと対応)
業務内容各ステップで実施する業務の詳細な説明
担当者・責任者業務を実施する担当者および承認者の役職
使用帳票インプット・アウトプットとなる帳票・証憑
使用システム業務で使用する情報システムの名称
実施時期・頻度業務の実施タイミング(日次、月次等)
統制活動当該ステップで実施される統制の内容

リスク・コントロール・マトリックス(RCM)

概要と目的

財務報告の信頼性に影響を与えるリスクと、それに対応する統制活動を一覧表にまとめた文書。リスクと統制の対応関係を明確にし、統制の網羅性や有効性を評価するための基礎資料となる。キーコントロールの識別にも使用される。

主な記載項目

項目内容
統制番号統制活動を識別するための番号
財務報告の主張実在性、網羅性、権利と義務、評価、期間配分、表示
リスク財務報告に虚偽記載が生じる可能性のあるリスクの内容
統制活動リスクに対応する統制活動の具体的な内容
統制の種類予防的統制/発見的統制、IT統制(自動化統制)/手作業統制
実施頻度統制の実施タイミング(都度、日次、月次等)
実施担当者統制を実施する担当者の役職
証跡統制の実施を証明する証跡(承認印、ログ等)
キーコントロール当該統制がキーコントロールに該当するか否か

財務報告の主張(アサーション)

主張内容
実在性資産・負債が実際に存在し、取引が実際に発生していること
網羅性計上すべき取引がすべて記録されていること
権利と義務資産に対する権利、負債に対する義務が存在すること
評価資産・負債が適切な金額で計上されていること
期間配分取引が適切な会計期間に記録されていること
表示財務諸表上で適切に分類・開示されていること

3点セット比較表

項目フローチャート業務記述書RCM
別称業務流れ図ナラティブリスクコントロールマトリックス
形式図式(フロー図)文章(表形式)一覧表(マトリックス)
主な目的業務の流れの可視化業務内容の詳細説明リスクと統制の対応明示
主な用途全体像の把握、問題点の発見業務の理解、引継ぎ統制の網羅性確認、評価
作成の難易度中程度比較的容易高い(専門知識必要)
更新の頻度業務変更時業務変更時業務変更時+年次見直し

作成の流れ

対象プロセスの選定
評価範囲の決定に基づき、文書化対象となる業務プロセスを特定
現状業務のヒアリング
業務担当者へのインタビュー、既存マニュアル・規程の確認
フローチャートの作成
業務の流れを図式化し、統制ポイントを識別
業務記述書の作成
フローチャートの各ステップを文章で詳細に説明
RCMの作成
リスクの識別、統制活動の整理、キーコントロールの特定
整合性の確認・レビュー
3点セット間の整合性確認、業務担当者・監査法人によるレビュー

主な対象業務プロセス

1
販売プロセス
受注→出荷→売上計上→請求→回収(売上高、売掛金)
2
購買プロセス
発注→検収→仕入計上→支払(仕入高、買掛金)
3
在庫管理プロセス
入庫→保管→出庫→棚卸(棚卸資産)
4
固定資産管理プロセス
取得→登録→減価償却→除売却(有形固定資産、無形固定資産)
5
経費精算プロセス
申請→承認→支払→計上(販売費及び一般管理費)
6
決算・財務報告プロセス
月次決算→四半期決算→年度決算→財務諸表作成→開示

実務上のポイント

  • 現状の業務実態を正確に反映することが重要。「あるべき姿」ではなく「実際の姿」を文書化する。
  • 3点セット間の整合性を保つ。フローチャートの統制ポイント、業務記述書の統制活動、RCMの統制番号を対応させる。
  • 業務担当者が理解・更新できる粒度で作成する。過度に詳細化すると維持管理が困難になる。
  • RCMでは、リスクに対して適切な統制が設計されているか(デザインの有効性)を確認する。
  • キーコントロールは、リスクの重要性と統制の有効性を考慮して識別する。すべての統制をキーコントロールとしない。
  • システム変更や組織変更があった場合は、速やかに3点セットを更新する。
IPO準備における留意点

3点セットの整備には相当の時間と工数を要する。N-2期頃から着手し、監査法人との協議を通じて文書化の水準を確認しながら進めることが望ましい。また、文書化と並行して統制の不備を識別・改善することで、上場審査時の指摘事項を減らすことができる。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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