基本定義

ウォークスルーとは、取引の開始から財務諸表への記録に至るまでの一連の業務プロセスを、実際の証憑や帳票を用いて追跡・確認することにより、内部統制の整備状況を評価する手続きである。

内部統制報告制度(J-SOX)における整備評価の中核的な手法であり、業務フローが文書化されたとおりに設計・構築されているかを検証する。IPO準備においては、上場審査で求められる事務フローの整備や、財務報告に係る内部統制の評価体制構築の基礎となる重要な手続きである。

概要

目的 内部統制が設計どおりに整備されているかを確認
実施者 内部監査部門、経営者(経理部門等の支援を受けて実施)
対象 財務報告に係る重要な業務プロセス(販売、購買、経費、給与、決算・財務報告等)
実施頻度 原則として年1回以上(業務プロセスに重要な変更があった場合は随時)
根拠 金融商品取引法第24条の4の4(内部統制報告書)、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

主な確認項目

ウォークスルーでは、業務プロセスの各ステップにおいて以下の6つの観点から確認を行う。

1
実在性
取引や残高が実際に存在しているか
2
網羅性
記録すべき取引がすべて記録されているか
3
権利と義務の帰属
資産に対する権利、負債に対する義務が適切に帰属しているか
4
評価の妥当性
資産・負債の評価が適切な方法で行われているか
5
期間配分の適切性
取引が適切な会計期間に記録されているか
6
表示の妥当性
財務諸表上で適切に分類・表示されているか

実施手順

ウォークスルーは以下の手順に従って実施される。

評価範囲の決定
重要な勘定科目・業務プロセスを特定し、評価対象を決定
業務記述書・フローチャートの確認
文書化された業務プロセスの内容を事前に把握
取引の追跡(ウォークスルーの実施)
取引開始から財務諸表記録までを証憑を用いて追跡
リスクと統制の対応確認
識別されたリスクに対し、適切な統制が設計されているか確認
不備の識別・文書化
整備上の不備があれば内容を記録し、改善計画を策定
評価結果の報告
経営者・監査役等に評価結果を報告

業務プロセス別の確認証憑例

業務プロセス 主な確認証憑
販売プロセス 受注書、出荷指示書、納品書、検収書、請求書、入金伝票、売掛金台帳
購買プロセス 購買依頼書、発注書、検収報告書、請求書、支払伝票、買掛金台帳
在庫管理プロセス 入出庫伝票、棚卸表、在庫受払台帳、廃棄申請書
経費精算プロセス 経費精算申請書、領収書、承認記録、振込データ
給与計算プロセス 勤怠データ、給与計算書、給与明細、振込データ、源泉徴収関係書類
決算・財務報告プロセス 仕訳伝票、勘定明細、決算整理仕訳、財務諸表、チェックリスト

関連する評価手続きとの違い

ウォークスルー(整備評価)

内部統制が設計どおりに構築されているかを確認。原則1取引を追跡して統制の存在と設計の適切性を評価する。

運用評価(運用テスト)

整備された内部統制が継続的に有効に機能しているかを確認。サンプルを抽出し、一定期間の運用状況を検証する。

サンプルテスト

運用評価の一手法。統計的又は非統計的にサンプルを抽出し、統制が実施された証跡を確認する。

IPO準備における位置づけ

IPO準備においてウォークスルーは、以下の場面で重要な役割を果たす。

  • Ⅱの部「事務フロー」の作成基礎:東証の記載要領では、受注から代金回収・支払いに至るまでの事務フローの図解と帳票サンプルの添付が求められており、ウォークスルーで作成したフローチャートがその基礎となる
  • 内部統制報告制度への対応:上場後に求められるJ-SOX対応の準備として、N-2期頃からウォークスルーを実施し、整備状況を評価・改善することが推奨される
  • 主幹事証券・監査法人からの指摘対応:引受審査や監査の過程で業務プロセスの整備状況について質問・指摘を受けた際、ウォークスルーの実施結果が回答の根拠となる
  • 経営管理体制の可視化:ウォークスルーを通じて業務プロセスを文書化することで、属人的な業務運営からの脱却と、組織的な管理体制の構築を示すことができる

実務上のポイント

  • 取引の代表性:追跡する取引は、当該業務プロセスを代表する典型的なものを選定する。例外的な取引は別途確認する
  • 担当者へのヒアリング:証憑の確認だけでなく、実際の業務担当者に手続きの内容や判断基準をヒアリングし、文書と実態の整合性を確認する
  • 統制の識別:各プロセスにおける承認、照合、レビュー等の統制活動を識別し、リスクとの対応関係を明確にする
  • IT統制との関連:業務プロセスがシステムに依存している場合、IT全般統制(アクセス管理、変更管理等)との関連も考慮する
  • 文書化の維持:ウォークスルーの実施結果は、業務記述書、フローチャート、リスクコントロールマトリクス(RCM)として文書化し、継続的に更新する
注意

ウォークスルーはあくまで整備評価であり、1件の取引を追跡するだけでは統制が継続的に機能しているかは確認できない。整備評価で「有効」と評価された統制についても、別途運用評価(サンプルテスト等)を実施し、運用状況を確認する必要がある。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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