税金を「特定しない」新方式への転換と、IPO実務への影響
この記事でわかること
- 2026年7月7日にASBJが公表した「法人税等に関する会計基準」(改正企業会計基準第27号)等の全体像
- 「具体的な税金を挙げて特定する」方式から「原則的な定めを置く」方式へ転換した理由と、防衛特別法人税との関係
- 課税対象利益を基礎とする税金/該当しない税金という新しい区分と、個別税金を補足文書で扱う仕組み
- 表示科目・住民税(均等割)・税効果の定義など、従来から変わる実務上の取扱い
- IPO準備企業・上場会社が適用時期、早期適用、監査対応で押さえておくべきこと
1. 何が公表されたのか
2026年7月7日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」)等を公表しました。これは、2026年1月9日に公表され同年3月9日まで意見募集が行われていた企業会計基準公開草案第94号を最終化したもので、寄せられたコメントの概要とそれに対する対応も併せて公表されています。
今回の公表は、単独の基準改正ではなく、関連する複数の基準・指針の見直しをまとめて行うものです。法人税等会計基準の改正に加えて、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」、連結キャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針などが同時に見直されました。あわせて、個別の税金ごとの取扱いを示す補足文書「我が国における課税対象利益を基礎とする税金及び税効果会計における税率に関する取扱いについて」も公表されています。
基準の名称そのものも変わりました。従来の「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」から、「法人税等に関する会計基準」へと改称されています。名称から個別の税目が消えたことは、後述する今回の改正の性格を端的に表しています。
参考: 企業会計基準委員会「改正企業会計基準第27号『法人税等に関する会計基準』等の公表」(2026年7月7日) https://www.asb-j.jp/jp/
適用時期については、公開草案の段階で、公表した日から1年程度経過した年の4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用し、公表日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用できることが提案されていました。3月決算会社であれば、原則適用は公表から相応の準備期間を置いた後、早期適用はそれより前の期首から選択できる建て付けです。適用初年度の具体的な期首は基準本文で確認する必要がありますが、いずれにせよ直近の決算に強制適用されるものではなく、準備期間が設けられている点は押さえておくとよいと思われます。
2. なぜ「税金を特定しない」方式に変えたのか
改正の中身に入る前に、今回の見直しがなぜ行われたのかを整理しておきます。ここを理解しておくと、個々の変更点が腑に落ちやすくなります。
改正前の法人税等会計基準は、法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税といった具体的な税金を挙げ、それぞれを規定する税法を参照することで、適用対象となる税金を特定して会計処理及び開示を定めていました。この方式には、新しい税金が創設されるたびに基準本体を改正しなければならないという弱点がありました。実際、特別法人事業税の取扱いを明確化するために2025年に改正が行われるなど、個別税金の創設・変更に応じた都度改正が繰り返されてきました。
この弱点が顕在化したのが、防衛特別法人税をめぐる対応です。防衛特別法人税は、令和7年度税制改正により、2026年4月1日以後に開始する事業年度から法人税に対する付加税として課されることになりました。都度改正の方式では、税制改正から適用開始までの短い期間で会計基準を改正しなければならず、現行の税制改正スケジュールに照らすと対応が間に合わないおそれがありました。
そこでASBJは、適用対象となる税金を「具体的な税金を挙げて税法を参照する」方法ではなく、「適用対象となる税金に関する原則的な定めを置き、具体的な税金を特定しない」方法に見直すこととしました。原則的な定めを置いておけば、新しい税金が創設されても、その税金が定めに当てはまる限り、基準本体を改正しなくても自動的に会計処理及び開示のルールが及ぶことになります。
具体的な税金を挙げ、当該税金を規定する税法を参照して適用対象を特定
法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税…を個別に列挙
適用対象となる税金に関する原則的な定めを置き、具体的な税金は特定しない
個別の税金の当てはめ・税率は「補足文書」で提示
図表01:適用対象税金の定め方の新旧比較(ASBJ「企業会計基準公開草案第94号『法人税等に関する会計基準(案)』等の公表」及び実務対応報告第48号の結論の背景に基づき作成)
なお、原則的な定めを置くこの改正は準備期間を経てから適用されるため、防衛特別法人税が課される初年度である2026年4月1日以後開始事業年度には、まだ改正後の基準が適用されていないという時間差が生じます。この空白を埋めるため、ASBJは短期的な対応として実務対応報告第48号「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を2026年2月27日に別途公表しました。同報告は、防衛特別法人税の会計処理及び開示を地方法人税と同様に行うものとし、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしています。改正後の法人税等会計基準が適用される段階では、防衛特別法人税は原則的な定めに当てはまる税金として自動的にカバーされるため、この実務対応報告は橋渡しの役割を終えることが想定されています。
参考: 企業会計基準委員会「実務対応報告第48号『防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い』の公表」(2026年2月27日) https://www.asb-j.jp/jp/
3. 改正の中身 ― 実務上のポイント
3-1. 「課税対象利益を基礎とする税金」という新しい軸
原則的な定めを置くにあたり、法人税等会計基準は、適用対象となる税金を「課税対象利益を基礎とする税金」と「課税対象利益を基礎とする税金に該当しない税金」に区分し、それぞれについて定めを置く構成に改められました。定義は国際的な会計基準を参考にしています。課税対象利益とは、課税当局の定めに従って算定された特定の事業年度の利益で、その利益を対象として税が課されるものを指し、課税対象利益を基礎とする税金とは、その課税対象利益を基礎として課税当局の定めに従って算定された税金及びその付加税を指します。
我が国の税金に当てはめると、法人税・地方法人税・住民税(法人税割)・事業税(所得割)・特別法人事業税が、課税対象利益を基礎とする税金に該当します。一方、住民税(均等割)・事業税(付加価値割)・事業税(資本割)は、課税対象利益を基礎とする税金には該当しませんが、従来どおり会計処理及び開示を明らかにする必要があるため、適用範囲に含めたうえで別途の定めが置かれています。このほか、受取利息・受取配当金等に課される源泉所得税等の表示や、親会社・国内子会社が外国の法令に従い納付する外国法人税の開示も、引き続き範囲に含まれます。
図表02:法人税等会計基準の適用対象となる税金の区分(法人税等会計基準及び補足文書に基づき作成)
3-2. 個別の税金は「補足文書」で機動的に
区分の枠組みを基準本体に置いたうえで、個別の税金がどちらの区分に当てはまり、どのような税率を用いるのかといった具体的な当てはめは、補足文書「我が国における課税対象利益を基礎とする税金及び税効果会計における税率に関する取扱いについて」で示すこととされました。補足文書は、企業会計基準・適用指針・実務対応報告・移管指針を追加または変更するものではなく、これらを適用するにあたって参考となる文書という位置づけです。
この二層構造がもたらす実益は、税制改正への対応スピードです。税制改正で個別の税金が創設または廃止されても、基準本体は原則的な定めを置いているだけなので改正する必要がなく、補足文書を変更することで機動的に対応できます。防衛特別法人税のような新税が今後生じても、基準改正を待たずに会計処理の拠り所が用意される仕組みになったといえます。
3-3. 従来から変わる主な取扱い
ASBJ自身が説明しているとおり、今回の改正で提案された内容は、基本的には従来の取扱いから大きく変わるものではありません。原則的な定めへの組み替えに伴う文言・表現の見直しが中心です。ただし、財務諸表の作成実務に直接影響しうる変更点がいくつか含まれているため、下表に整理します。
| 項目 | 従来 | 改正後 |
|---|---|---|
| 当期税金の表示科目 | 「法人税、住民税及び事業税」として税引前当期純利益(損失)の次に表示 | 税引前当期純利益(損失)の次に「法人税等」などの適切な科目をもって表示 |
| 住民税(均等割)の損益計算書上の表示区分 | 従来の取扱い | 表示区分が見直される |
| キャッシュ・フロー計算書における住民税(均等割)の取扱い | 従来の取扱い | 取扱いが見直される |
| 税効果会計の対象となる税金・法定実効税率の定義 | 個別税目を列挙 | 課税対象利益を基礎とする税金を税効果会計における「法人税等」と定義 |
別表01:改正により従来と異なることとなる主な取扱い(法人税等会計基準案及び関連公開草案に基づき作成。確定した文言は基準本文を参照)
適用初年度は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われます。住民税(均等割)については、表示方法の変更が生じるものの、重要性に照らせば多くの場合に比較情報の組替えを行わないという結論に至ると見込まれることから、経過措置として、適用初年度の比較情報について新たな表示方法に従った組替えを行わないことができるとされています。
4. IPO準備企業・上場会社が今から準備すべきこと
この改正は、会計処理の基本的な考え方を大きく変えるものではありません。もっとも、財務諸表の見え方に関わる表示面の変更を含むため、IPO準備の局面では次の点を早めに確認しておくのが実務的です。
第一に、適用時期と早期適用の方針を監査法人とすり合わせておくことです。上場申請に向けて「Ⅰの部」や目論見書、有価証券報告書の財務諸表を作成していく過程では、どの事業年度からこの基準を適用するのか、早期適用を選ぶのかによって、表示科目や比較情報の見せ方が変わります。申請期・直前期の財務諸表をどの基準で作るかは、監査対応の前提になるため、方針を先に固めておくと後戻りが減ります。改正の公表から適用までの時間関係、及び先行して適用される防衛特別法人税の実務対応報告との位置関係は、下図のとおりです。
図表03:公表・適用のスケジュール(ASBJ公表資料及び公開草案の提案に基づき作成。原則適用の適用初年度は基準本文を参照)
第二に、表示科目と勘定科目のマッピングの棚卸しです。損益計算書の税金費用の科目名が「法人税、住民税及び事業税」から「法人税等」などへ変わりうること、住民税(均等割)の損益計算書上の表示区分やキャッシュ・フロー計算書上の取扱いが見直されることは、会計システムの設定や開示帳票のひな型に影響します。準備企業は開示体制を新たに構築する段階にあることが多いため、既存の上場会社よりもむしろ、最初から改正後の様式を織り込みやすい立場にあります。
第三に、これは負担というより安心材料ですが、原則的な定めを置く方式への転換によって、今後の税制改正で新しい税金が創設されても、会計処理の拠り所が基準改正を待たずに整いやすくなりました。防衛特別法人税やグローバル・ミニマム課税のように、近年は課税対象利益を基礎とする税金の枠に収まりにくい新しい税制が相次いでいます。準備期間中に税制が動いても会計処理が空白になりにくい仕組みになったことは、開示の予見可能性を高める方向に働くと考えられます。
5. 結び
今回の「法人税等に関する会計基準」への改正は、税金を一つずつ名指しして基準に書き込む方式から、原則的な定めで受け止め、個別の当てはめは補足文書に委ねる方式への転換です。会計処理そのものの結論は概ね維持される一方で、名称・表示科目・住民税(均等割)の取扱い・税効果の定義といった見え方の部分に変更が及びます。
IPO準備企業・上場会社としては、まず自社の適用時期と早期適用の可否を基準本文で確認し、監査法人と適用方針を共有すること、そのうえで税金費用の表示科目や住民税(均等割)の表示・キャッシュ・フロー計上について、会計システムと開示帳票の設定を点検しておくことが、当面の具体的なアクションになります。
参考文献・一次資料一覧
政府・公的機関
- 財務会計基準機構「法令及び会計基準の適用時期一覧」 https://www.fasf-j.jp/
企業会計基準委員会(ASBJ)
- 改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等の公表(2026年7月7日) https://www.asb-j.jp/jp/
- 企業会計基準公開草案第94号「法人税等に関する会計基準(案)」等の公表(2026年1月9日) https://www.asb-j.jp/jp/project/exposure_draft/y2026/2026-0109.html
- 実務対応報告第48号「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」の公表(2026年2月27日) https://www.asb-j.jp/jp/
- プロジェクト「法人税等に関する会計基準」 https://www.asb-j.jp/jp/project/project_list/pj-20250402.html
本記事は、IPO準備に携わる実務家・上場会社担当者向けに、ASBJが公表した会計基準改正の要点と実務上の留意点を整理したものです。記載内容は公表資料に基づいており、適用時期や個別の取扱いなど詳細については基準本文・一次資料をご確認ください。
IPOに精通した公認会計士の力で
あなたの会社のIPOを成功に導きます
株式会社プライムコンサルティングは、IPOを支援する専門家集団です。
監査法人・主幹事証券の立場からIPOを一貫して支援してきた実績を基に伴走します。
オンライン相談対応

