はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)は2026年1月9日、企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第35号「後発事象に関する会計基準の適用指針」を公表しました。適用開始は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首とされており、多くの3月決算企業にとっては2028年3月期から強制適用となります。

本会計基準の主な目的は、これまで日本公認会計士協会(JICPA)の監査基準報告書560実務指針第1号(監基報560実1)に委ねられていた後発事象の会計上の取扱いを、正式な会計基準として体系化・移管することにあります。会計処理そのものに大きな変更はありませんが、財務諸表の公表の承認に関する新たな注記義務が設けられた点は実務上の重要な変更点です。

改正の背景

従来の課題

我が国では、後発事象に関する包括的な会計基準が存在せず、取扱いはJICPAが公表する監査基準報告書という「監査の文書」の中に会計上のルールが混在する形となっていました。これにより「会計基準の全体像が把握しにくい」「体系の完全性に欠ける」といった指摘がなされていました。

ASBJとJICPAは2023年6月以降、実務指針等のASBJへの移管プロジェクトを進めており、2024年6月に「継続企業及び後発事象に関する調査研究」を公表。後発事象に関する会計上の内容をASBJの会計基準として移管することが可能と整理され、2024年8月より基準開発が本格化しました。

策定の経緯

2023年6月
ASBJが実務指針等の移管に関する意見募集文書を公表
2024年6月
「継続企業及び後発事象に関する調査研究」公表。移管の実行可能性を確認
2024年8月
第531回ASBJにて後発事象に関する会計基準の開発を正式に再開
2025年7月
公開草案(企業会計基準公開草案第87号)を公表・コメント募集
2025年12月
第566回ASBJにて最終基準の公表を承認
2026年1月9日
企業会計基準第41号等を正式公表。JICPAが監基報560実1を廃止
2027年4月1日〜
強制適用開始(3月決算企業は2028年3月期から)

後発事象の会計基準の概要

後発事象の定義と分類

企業会計基準第41号では、後発事象を「決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のうち、評価期間の末日までに発生した事象」と定義しています(同第4項)。後発事象は性質により以下の2種類に分類されます。

修正後発事象

実質的な原因が決算日現在に存在し、決算日時点の会計上の判断・見積りに追加的・客観的な証拠を提供する事象。財務諸表の修正が必要。

開示後発事象

決算日後に発生し、当期の財務諸表には影響しないが、翌期以降に影響を及ぼす事象。注記開示が必要。

評価期間の見直し——最大の改正ポイント

今回の改正で最も注目される変更点は、後発事象の評価期間の末日の取扱いです。

従来(監基報560実1)

一般の会社・会計監査人設置会社ともに

監査報告書日

新基準(第41号)

一般の会社:

財務諸表の公表の承認日

会計監査人設置会社:

確認日(経営者確認書の日付)

「財務諸表の公表の承認日」とはIAS第10号「後発事象」と同様の概念であり、この変更によりIFRSとの整合性が大幅に高まりました。なお会計監査人設置会社においては、確認日後・公表承認日までに発生した「本来は修正後発事象に該当する事象」を開示後発事象に準じて取り扱う特例が維持されています。これは、会社法と金融商品取引法が併存する日本固有の実務慣行を尊重したものです。

新たに求められる注記事項

本会計基準が実務上最も留意を要するのが、新設された「財務諸表の公表の承認に関する注記」です(同第10項)。財務諸表がどの時点までの事象を反映しているかを利用者に示すことを目的としており、IAS第10号第17項に対応します。

具体的には以下の事項の注記が求められます。

  1. 財務諸表の公表の承認日
  2. 財務諸表の公表を承認した機関または個人の名称
  3. 重要な開示後発事象の内容および影響額等(見積りが困難な場合はその旨と理由)

①と②は連結・個別財務諸表の双方で注記が必要です。ただし内容が同一の場合、個別財務諸表では連結財務諸表の記載をもって代えることができます。また期中財務諸表においては①②の注記は不要とされています。

IFRS任意適用企業の注記例(先行事例)

IFRS任意適用企業はIAS第10号に基づき、すでに同様の注記を実施しています。2025年に提出された有価証券報告書をもとに、承認者別の開示パターンを紹介します。

事例1:ソニーグループ(電機・エンタメ)——複数個人による承認

当社グループの2025年3月31日に終了する事業年度の連結財務諸表は、2025年5月13日に代表執行役 会長 CEO 吉田 憲一郎及び代表執行役 副会長 CFO 十時 裕樹によって承認されております。

CEOとCFOの連署による承認形式です。

事例2:武田薬品工業(医薬品)——CEO+CFOによる承認

当社の2025年3月31日に終了した事業年度の連結財務諸表は、2025年5月14日に代表取締役社長兼CEO クリストフ・ウェバー及び最高財務責任者(CFO)米田 慎也によって承認されております。

グローバル企業として外国人CEOと日本人CFOの連名で承認する形式。

事例3:HOYA(精密機器)——取締役会による承認

当連結会計年度の連結財務諸表は、2025年4月24日に取締役会によって承認されております。

取締役会決議による承認の事例です。

事例4:エーザイ(医薬品)——取締役会による承認

当社グループの2025年3月31日に終了する事業年度の連結財務諸表は、2025年5月15日に取締役会によって承認されております。

社外取締役比率が高い取締役会構成のもとでの承認形式です。

承認形式の整理

承認形式 主な特徴
個人(代表者1名) 代表取締役社長など単独で承認。簡潔な開示となる
複数の個人(CEO+CFO等) 財務責任者の関与を明示。グローバル企業に多い
会議体(取締役会) 集団的意思決定を重視。社外取締役比率が高い企業に多い

日本基準企業の実務対応

日本基準採用企業への強制適用は2027年4月1日以後開始事業年度(多くは2028年3月期)からであり、現時点では対応が必須ではありません。しかし体制整備や監査法人との事前協議を考慮すると、2026年度中から検討を開始することが望ましいでしょう。

主な実務対応事項は以下のとおりです。

  • 財務諸表の「公表の承認」に係る社内プロセスを整備・明確化する
  • 承認する機関または個人を決定し、定款・取締役会規程等の根拠を整備する
  • 連結財務諸表と個別財務諸表で承認プロセスが異なる場合はそれぞれ整理する
  • 監査法人と事前協議し、確認日(経営者確認書の日付)との関係を確認する

IFRSとの主な相違点(残存する日本固有の取扱い)

新基準の公表によりIFRSとの整合性は大幅に向上しましたが、会計監査人設置会社における特例(確認日後・公表承認日前に発生した本来の修正後発事象を開示後発事象に準じて扱う)は日本固有の取扱いとして引き続き残ります。これは会社法上の計算書類の単一性を維持する実務慣行に配慮したものです。

まとめ

企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」の公表は、後発事象の取扱いを正式な会計基準として体系化するとともに、IFRSとの整合性を高める重要な一歩です。会計処理そのものの変更は最小限ですが、財務諸表の公表の承認日・承認者の注記という新たな開示要求は、社内の承認プロセスの見直しや取締役会規程の整備を伴う実務的な対応を必要とします。

IFRS任意適用企業の先行事例が示すとおり、承認形式は「個人」「複数個人(CEO+CFO)」「取締役会」の3パターンが想定されます。自社のガバナンス体制を踏まえ、適切な承認プロセスを早期に設計しておくことが、スムーズな適用につながります。

IPO支援サービス

IPOに精通した公認会計士の力で
あなたの会社のIPOを成功に導きます

株式会社プライムコンサルティングは、IPOを支援する専門家集団です。
監査法人・主幹事証券の立場からIPOを一貫して支援してきた実績を基に伴走します。

無料 まずは相談してみる

オンライン相談対応

執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

IPO準備についてのご相談を承ります

初回相談無料・オンライン対応可

お問い合わせ