今週の注目の資金調達ニュース

  • 完全自動運転システムを開発するチューリングが、シリーズAラウンド全体で総額278.9億円の調達完了を発表しました。エクステンションラウンドの126.2億円は、エクイティ68.2億円とデット58.0億円を組み合わせた構成です。
  • 住宅ローンテックのiYellが、住宅ローン業務支援「いえーる ダンドリ」でシリーズFのファーストクローズ13.15億円を実施し、創業からの累計調達額が106.8億円に達したと発表しました。エクイティとベンチャーデットのハイブリッド調達です。
  • 住宅・オフィス向けプラットフォームのビットキーが、政府系ファンド「JIC VGI」からメザニンファイナンスを含む40億円を追加調達し、累計調達額が390億円を超えたと発表しました。
  • 顧客エンゲージメントプラットフォーム「クウゼン」を提供するクウゼンが、シリーズBで総額16.3億円(エクイティとデットの組み合わせ)を調達したと発表しました。
  • 対象期間に公表された国内スタートアップの資金調達は19件、金額が公表されているのは9件で合計は約372億円でした。上位の案件では、エクイティにデットやメザニンを組み合わせるハイブリッド調達が目立ちました。

1. 今週のサマリー(始めたてなので7月1日なども紛れ込んでいます。)

2026年7月4日から7月10日までの1週間に公表された国内スタートアップの資金調達は19件でした。このうち金額が公表されているのは9件で、合計は約372億円です。最大の案件は、完全自動運転システムを開発するチューリングのシリーズAラウンド全体278.9億円で、今週の公表額の大半を占めました。

今週の資金調達で目立ったのは、金額規模の大きい案件がそろってエクイティ単独ではなく、デット(融資)やメザニンを組み合わせたハイブリッド型で調達している点です。チューリングはエクステンション分でデット58.0億円を、iYellはベンチャーデット3億円を、ビットキーはメザニンファイナンスを、それぞれエクイティと併用しています。出し手の顔ぶれも、AMD Venturesやスーパー・マイクロ、三菱商事といった事業会社・CVC、政府系ファンドのJIC VGI、銀行系のベンチャーデットファンドと幅広く、レイターステージの資本政策の選択肢が広がっていることがうかがえます。

2. 今週の注目調達 4社

2-1. チューリング — シリーズAラウンド全体で278.9億円、エクイティとデットを併用

同社HPより
同社HPより

完全自動運転システムを開発するチューリング(Turing)は、2026年7月6日、シリーズAラウンド全体で総額278.9億円の資金調達を完了したと発表しました。内訳は、2025年11月のファーストクローズ152.7億円に、今回のエクステンションラウンド126.2億円を加えたものです。エクステンション分126.2億円のうち、エクイティによる調達が68.2億円、三菱UFJ銀行からの融資(デット)が58.0億円と説明されています。エクイティの引受先には、AMD Ventures、BIPROGY、DataDirect Networks、GMOインターネット、三菱商事、三菱UFJ銀行、Super Micro Computer、東京エレクトロン デバイスが名を連ねています。資金使途は、計算基盤の拡充、社会実装に向けた事業体制の強化、人材採用と説明されています。

参考: チューリング株式会社「チューリング、シリーズAラウンド全体で278.9億円の資金調達を完了、エクステンションラウンドで126.2億円の資金調達を実施」(2026年7月6日) https://tur.ing/news/20260706/

シリーズAという名称ながら、ラウンド全体の規模は278.9億円に達しています。半導体・サーバー関連の事業会社が引受先に並び、計算基盤という原価性の高い投資に充てる資金の一部を銀行融資でまかなう構成は、資産の裏付けが説明しやすいディープテック領域ならではの組み立てと読めます。ラウンド名称と実際の調達規模・ステージ感が必ずしも一致しないケースとして、資本政策を検討するうえでも参考になる事例といえます。

2-2. iYell — シリーズFで累計100億円突破、エクイティとベンチャーデットのハイブリッド

同社HPより
同社HPより

住宅ローンテックのiYellは、2026年7月3日、住宅事業者向けクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」に関し、シリーズFのファーストクローズとして総額13.15億円を調達し、創業からの累計調達額が106.8億円を突破したと発表しました。内訳はエクイティ10.15億円とデット3億円で、「エクイティとベンチャーデットを組み合わせたハイブリッド調達」と説明されています。デット3億円は、Fivotとりそな銀行が共同設立した「RFC Venture Debt Fund 1号投資事業有限責任組合」が引き受けています。資金使途は、「いえーる ダンドリ」の機能拡充と全国規模でのシェア拡大、周辺領域への戦略的投資と説明されています。リリースには「上場に向けた最適かつ強固な財務および資本基盤を構築」との記載もあります。

参考: iYell株式会社「iYell、累計資金調達額100億円を突破 『シリーズF』ファーストクローズにて総額13.15億円の資金調達を実施」(2026年7月3日) https://iyell.co.jp/news/20260703_finance

シリーズFという深いラウンドに至っている点、累計調達額が100億円を超えた点、そして上場を視野に入れた財務基盤の構築を明示している点で、プレIPO段階の資本政策として押さえておきたい案件です。エクイティを主としつつベンチャーデットを組み合わせることで、既存株主の持分希薄化を一定程度抑えながら成長投資の原資を確保する狙いがあると読めます。

2-3. ビットキー — 政府系ファンドからメザニンを含む40億円、累計390億円超に

同社HPより
同社HPより

住宅・オフィス向けのコネクトプラットフォーム「homehub」「workhub」を展開するビットキーは、2026年7月1日、政府系ファンドのJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(JIC VGI)が運営する「JICベンチャー・グロース・ファンド2号投資事業有限責任組合」から40億円を追加調達し、累計調達額が390億円を超えたと発表しました。今回の調達には、融資(デット)と出資(エクイティ)の中間に位置するメザニンファイナンスを一部活用したと説明されています。資金使途は、プラットフォーム拡張に向けた新製品・新サービスの開発と、非連続な成長を加速させるためのM&A投資と説明されています。

参考: 株式会社ビットキー「ビットキー、政府系ファンド『JIC VGI』から追加資金調達 累計資金調達額390億円超に」(2026年7月1日) https://bitkey.co.jp/newsroom/20260701/

2024年に続くJIC VGIからの追加出資であり、政府系ファンドが継続してレイターステージのスタートアップを支える構図が見てとれます。メザニンの活用は、株式による希薄化を抑えつつまとまった資金を確保する手段として位置づけられます。リリースでは、東証グロース市場の上場維持基準の見直しに触れつつ「市場環境は大きな転換期」との認識も示されており、上場の環境変化を意識した資本政策の一手と読めます。

2-4. クウゼン — シリーズBで16.3億円、AIエージェント強化と海外展開へ

顧客エンゲージメントプラットフォーム「クウゼン(KUZEN)」を提供するクウゼンは、2026年7月7日、シリーズBラウンドで総額16.3億円を調達し、累計調達額が28.8億円になったと発表しました。調達はエクイティ(第三者割当増資)と複数金融機関からの借入(デット)の組み合わせです。リード投資家は「RJバリューPlus1号投資事業有限責任組合」で、既存株主の東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)や新規の住商ベンチャー・パートナーズなど複数のVC・銀行が参加しています。資金使途は、AIエージェントやマルチチャネル対応を含むプロダクト開発の強化、海外展開、M&Aと説明されています。

参考: 株式会社クウゼン「株式会社クウゼン、総額16.3億円の資金調達を実施」(2026年7月7日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000204.000017833.html

大学系VCをはじめとする既存株主が継続して参加しつつ、事業会社系VCが加わるシリーズBです。この案件でもエクイティに銀行借入を組み合わせており、今週の他の大型案件と同様、成長投資の原資を株式のみに依存しない設計になっている点が特徴といえます。

3. 今週の調達一覧

対象期間に公表された調達19件です(公表日順)。

公表 企業名 事業内容 ラウンド 調達額 主な引受先・出し手
7/4 robottte エッセンシャルワーカー産業向け採用プラットフォーム プレシリーズA 非開示 DGDV(リード)
7/6 スコレ 次世代リーダー育成事業 非開示 非開示 西武しんきんキャピタル ほか
7/6 アドバンスコンポジット 複合材料関連 シリーズB 非開示 京都iCAP
7/6 スパイクスタジオ AIエージェント開発 シード 3.7億円 B Dash Ventures ほか
7/6 SAZO 越境ECサービス 非開示 非開示 NAVER系ファンド
7/6 チューリング 完全自動運転システム開発 シリーズA 278.9億円 AMD Ventures、三菱商事、三菱UFJ銀行 ほか
7/7 LF(日本空き家サポート) 空き家管理サービス シリーズA(追加) 1.1億円 非開示
7/7 iYell 住宅ローン業務支援「いえーる ダンドリ」 シリーズF 13.15億円 RFC Venture Debt Fund ほか
7/7 Smooth モバイル決済「Smooth Pay」 シード 非開示 寺田倉庫 ほか
7/7 ビットキー 住宅・オフィス向けコネクトプラットフォーム 追加調達 40億円 JIC VGI
7/7 ジザイエ 現場産業向け遠隔業務プラットフォーム「現場OS」 戦略的調達ラウンド 約4億円 事業会社・VC・金融機関
7/7 exmore 医療DX(AI受付「SuguDesk」) シード 非開示 非開示
7/7 クウゼン 顧客エンゲージメントプラットフォーム シリーズB 16.3億円 RJバリューPlus1号、UTEC ほか
7/7 輝翠 屋外自動走行ロボット「Adam」の開発・販売 第三者割当増資 非開示 非開示
7/9 ユトリア だるま文化関連(伝統工芸) 第三者割当増資 非開示 埼玉りそな創業応援ファンド
7/9 MOZU 建築資材のデジタル問屋「MOZUオーダー」 シリーズB 13億円 非開示(VC・リード投資家)
7/9 BuddyCompass エンタメ・地域活性関連 非開示 1.5億円 非開示
7/10 ZOYO 寄付・ソーシャルグッド関連 非開示 非開示 コングラント
7/10 ユリオプス ITシステムの開発・コンサルティング 第三者割当増資 非開示 阪神電気鉄道(引受)

別表01:各社プレスリリース等の公表情報に基づき作成。事業内容は各社の公式サイト・リリースの記載に基づく。公表日はニュース公表ベースで、実際の発表日と数日前後する場合があります。

調達額やラウンドが非公表の案件も、次回調達時のリリースや投資家側の公表で後日明らかになることがあります。

4. 実務家の視点 — レイターの資本政策で「デット併用」をどう位置づけるか

今週の大型案件に共通していたのは、エクイティにデットやメザニンを組み合わせる設計でした。チューリングはエクステンション分でデット58.0億円を、iYellはベンチャーデット3億円を、ビットキーはメザニンを、クウゼンは複数金融機関からの借入を、それぞれエクイティと併用しています。株式による調達だけに頼らずに成長投資の原資を確保することで、既存株主や経営陣の持分希薄化を一定程度抑える狙いがあると読めます。

IPO準備の観点では、こうしたハイブリッド調達は資本政策表の作り込みと開示準備の両面に影響します。ベンチャーデットやメザニンには、財務制限条項(コベナンツ)、償還期限、新株予約権の付与や転換条件が伴うことが多く、これらは上場審査における財務の安定性や資本構成の説明で確認される論点になります。負債性の資金がどの程度含まれ、返済・償還のスケジュールがどうなっているか、潜在株式(ワラント等)が将来の希薄化にどう影響するかは、Ⅰの部・Ⅱの部の記載や引受審査での質問にもつながりやすい部分です。

エクイティとデットの比率をどう設計するかは、成長スピードと財務の健全性、そして上場時の資本構成のバランスをどう取るかという経営判断そのものです。今週の各社が示した組み合わせは、レイターステージで資金調達を検討する企業にとって、選択肢の広がりを具体的な数字で確認できる材料といえます。ウォッチリストに加えておくと、各社の次の調達や上場申請の動きから、ハイブリッド調達がその後の資本政策にどう効いたかを追うことができます。

参考文献・一次資料一覧

各社プレスリリース・公表資料

  • チューリング株式会社「チューリング、シリーズAラウンド全体で278.9億円の資金調達を完了、エクステンションラウンドで126.2億円の資金調達を実施」(2026年7月6日)https://tur.ing/news/20260706/
  • iYell株式会社「iYell、累計資金調達額100億円を突破 『シリーズF』ファーストクローズにて総額13.15億円の資金調達を実施」(2026年7月3日)https://iyell.co.jp/news/20260703_finance
  • 株式会社ビットキー「ビットキー、政府系ファンド『JIC VGI』から追加資金調達 累計資金調達額390億円超に」(2026年7月1日)https://bitkey.co.jp/newsroom/20260701/
  • 株式会社クウゼン「株式会社クウゼン、総額16.3億円の資金調達を実施」(2026年7月7日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000204.000017833.html

報道・記事


本記事は、IPO準備に携わる実務家向けに、今週公表された国内スタートアップの資金調達動向を整理したものです。記載内容は各社の公表資料・報道等に基づいており、金額・ラウンド・引受先等の詳細は一次資料をご確認ください。掲載の網羅性を保証するものではありません。

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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