後から直しにくい資本政策の9つの型 ― 連載のはじめに
資本政策は、創業のタイミングから付きまとう問題であるにも関わらず、後から作り直すことや修正をすることが容易にはできません。株式はいったん渡すと会社の側から一方的に取り上げられないためです。本連載では、スタートアップの創業期やM&Aイグジット、IPO準備の現場で繰り返し見られる9つの類型を、生じる時期と問われる節目で整理します。
この記事でわかること
- 資本政策が、事業計画やガバナンス体制と違って後から直しにくい理由
- 類型を論じる前に確認しておくべき、反社会的勢力・反市場勢力の排除
- 実務で繰り返し見られる資本政策の9類型と、それぞれが問われる節目
- 均等に近い持分から始まった会社の持分が、上場までにどこまで動いたのか(実例)
- それぞれの型がどの時期に生まれ、どの節目で表面化するのか
- 本連載で各回どこまで扱うか
この連載と用語について
資本政策のアンチパターンとは、スタートアップの事業運営のなかで繰り返し見られ、かつ後から是正することが難しい資本構成上の型を指しています(筆者独自の用語です)。上場準備の局面で問題として持ち込まれることが多いものの、上場を目指すかどうかにかかわらず生じます。当てはまることが直ちに失敗を意味するものではありません。
ただし、共通しているのは、株式は原則としていったん渡すと会社の側から一方的に取り上げられないものであるため、判断の是非がその時点ではなく、数年後の節目(資金調達・M&A・退職・上場)で現れるという構造です。
この回で使う用語の説明を開く
- ラウンド
- スタートアップが外部の投資家から資金調達を行う1回の機会。設立直後から順に、シード、シリーズA、シリーズB…と呼ばれ、進むほど調達額と企業価値が大きくなるのが一般的です。1回ごとに新株を発行するため、既存株主の持株比率はその都度下がります。
- 希薄化(ダイリューション)
- 新株の発行によって既存株主の持株比率が下がること。
- 優先株式(種類株式)
- 残余財産の分配や議決権などについて、普通株式と異なる内容を定めた株式。ラウンドでの調達は優先株式で行われることが多く、上場に際して普通株式に転換されます。
- 資本政策表(キャップテーブル)
- 誰が何株を保有しているかを時系列で管理する表。将来の調達や新株予約権の発行を織り込んだ見通しを含みます。
1. なぜ資本政策だけが後から直しにくいのか
会社の課題の多くは、時間と手間をかければ直せます。規程が整っていなければ作ればよく、管理体制が弱ければ人を入れて運用実績を積めばよく、事業計画の精度が低ければ精緻化すればよい。いずれも自社の努力で前に進められます。
資本政策だけは大きく違います。株主構成を変えるには、通常、すでに株主になっている人間の同意と、動かすための資金が要ります。相手が応じなければそこで終わりになる場合もあります。しかも、株式を買い戻す等の動きを行おうとすると、企業価値が上がるほど必要な資金は増えるので、事業がうまくいっている会社ほど修正が難しくなります。
さらに厄介なのは、問題が表に出るまでに時間差があることです。株主構成は、日々の運営のなかでは意識されません。表面化するのは会社が節目を迎えるときで、例えば、具体的には次の4つの場面です。
追加の資金を調達しようとするとき。会社を売却する話が出たとき。経営陣や創業メンバーの誰かが辞めるとき。そして上場を目指すと決めたとき。いずれも、まず誰が株式を持っているかが確認されます。設立時の判断が問われるのは、たいていその数年後であり、その時点では原因となった意思決定から何度かのラウンドを挟み、関係する当事者も増えています。
2. 類型の前に ― 株主に絶対に入れてはならない相手(絶対的なアンチパターン)
以下で挙げる9類型は、いずれも程度の問題です。持分をどこまで渡すか、いつ手当てするかという判断の話であり、当てはまったからといって取り返しがつかないわけではありません。
その手前に、判断の余地がない一線があります。反社会的勢力および反市場勢力を株主に入れないことです。
東京証券取引所の上場審査等に関するガイドラインは、上場審査の内容として、新規上場申請者の企業グループが反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること、及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められることを挙げています。ここでいう関与には、企業グループや役員が直接に該当する場合だけでなく、主な株主や取引先を通じて実態として経営活動に関与している場合も含まれるものとして確認が行われます。
政府も、企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)において、反社会的勢力とは一切の関係をもたないこと、資金提供を絶対に行わないことを基本原則として示しています。
参考: 法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」 https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
反市場勢力については、法令上の明確な定義があるわけではありませんが、相場操縦や不公正取引に関与する者を指す語として実務で用いられます。株主として入っている場合、上場後の株価形成に関する疑義につながるため、審査の場面では反社会的勢力と同様に扱われると考えておくべきです。
2-1. なぜ他の類型と違うのか
株式は、いったん渡してしまえば会社の側から一方的に取り上げることができません。この点は9類型と同じですが、相手が反社会的勢力・反市場勢力である場合、結果の重さが違います。上場は事実上できなくなり、買い戻そうにも相手が応じる保証はなく、応じたとしてもその取引自体が新たな問題を生みます。譲渡制限を付していても、すでに株主である以上、排除の手段としては働きません。
やっかいなのは、この種の出資の申し出が来るのは、資金が最も必要な時期だという点です。エンジェルラウンドやシードで、紹介者を介した少額の出資、名義を借りた出資、素性のはっきりしない個人からの出資は、断りにくい状況で持ち込まれます。金額が小さいほど確認が甘くなりがちですが、比率の大小は関係ありません。
対処は、株主として入れる前に確認する以外にありません。入ってからできることは、ほとんど残っていません。
3. 9類型の全体像
先に断っておくと、以下の9類型は、当てはまれば失敗するというものではありません。複数の創業メンバーが株式を分け合った状態から上場に至った会社も、外部の株主が過半を持ったまま上場した会社もあります。分かれ目になるのは、株主間契約や買戻しの取決めといった手当てが講じられていたか、当事者の関係が維持されたか、そして問題に気づいた時期がいつだったか、といった点です。
一例として、ニュース配信アプリを運営する株式会社Gunosyは、東京大学大学院に在籍していた3名が2012年に設立した会社で、設立時には3名がそれぞれ3分の1ずつを保有していたとされています。同社は2015年に東証マザーズへ上場しており、均等に近い持分から始まった会社が上場に至った例といえます。他方で、上場申請前の時点における共同創業者3名の保有割合はそれぞれ3.53%となっており、同じ時点の筆頭株主は創業メンバー以外の個人株主で41.12%でした。上場から10年を経た2025年11月時点でも、3名の保有割合は1.5%台から1.7%台にとどまっています。
つまり、均等出資という出発点そのものが上場を妨げるわけではありません。ただし、その後のラウンドで持分がどこまで動き得るのか、そして一度動いた比率が戻りにくいことは、この推移から見て取れます。この事例は第1回で詳しく扱います。
もっとも、日本ではここまで下がるほうが例外的です。少し古いですが、経済産業省が2025年9月に公表したスタートアップ投資契約ガイドラインの増補版によれば、2023年に東証グロース市場へ上場した企業のうち、創業時の普通株主が過半数の議決権を維持している割合は36%、3分の1以上は59%とされています(出所として株式公開白書2024年版が引かれています)。米国では、SaaSの上場企業で経営株主の保有割合が15%程度という試算が紹介されており、日本は創業者が持分を保ったまま上場する国だといえます。
参考: 経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」増補版(令和7年9月) https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startup_investment_agreement_guidelines/startup_investment_agreement_guidelines.html
参考: 株式会社Gunosy 有価証券報告書等(大株主の状況) https://www.gunosy.co.jp/ir/library/
裏を返せば、手当てのないまま時間が経つと選択肢が減っていく型でもあります。本連載で扱うのはその意味での9類型で、それぞれが生まれる時期には偏りがあります。
図表01:9類型が生まれる時期と、それが問われる節目までの時間差(筆者作成)
| # | 型 | どういう状態を指すか | 主に問われる場面 |
|---|---|---|---|
| ① | 創業者が株式を持たないまま経営を担う | 資金の出し手が全株を保有し、事業の担い手は役員として招かれている | 借入時の個人保証、売却時の対価配分、経営者の退任、上場審査 |
| ② | 創業初期の均等出資 | 2名で50:50、3名で3分の1ずつなど、単独では決議要件を満たせない構成 | 創業メンバーの離脱時、意見が割れた場面での意思決定 |
| ③ | 退職者・離脱者に株式が残る | 買戻し条項がないまま去った元役職員が株主として残っている | 役職員の退職時、株主総会の招集実務、上場前の株主整理 |
| ④ | 無計画な希薄化 | ラウンドごとに「今回だけ」で放出を重ね、経営陣の持分が説明できない水準になる | 次の資金調達、会社の売却、上場審査での経営の継続性 |
| ⑤ | 早すぎる高いバリュエーション | 実態に対して高い価格で調達し、次のラウンドで価格を上げられない | 次の資金調達(ダウンラウンド交渉)、会社の売却 |
| ⑥ | SOプールの設計不足・発行の遅れ | 必要量を見積もらないまま進み、行使価額が上がってから慌てて発行する | 人材の採用と引き留め、退職時の取扱い、税制適格要件の充足 |
| ⑦ | 親族・関係会社への株式分散 | 名義株や、経緯の説明がつかない親族保有分が残っている | 資金調達時の株主の確認、関連当事者取引、上場審査 |
| ⑧ | 種類株式の条項の整理漏れ | みなし清算条項や拒否権が残ったまま次の段階に進む | 会社の売却時の分配、上場申請前の条件整理、既存投資家との再交渉 |
| ⑨ | 上場直前期の株式移動 | 申請が近づいてから持分の調整をしようとする | Ⅰの部への記載、価格の妥当性の説明 |
別表01:本連載で扱う9類型(筆者作成)
3-1. 経験の差につけ込まれる場合がある
これらの型に陥る原因は、当事者の判断の甘さだけとは限りません。学生起業のように、事業の能力は高いものの資本政策や契約の経験がない創業者を対象として、著しく不利な条件での出資が持ち込まれる例があると聞かれます。この種の話は個別の事情に踏み込まないと評価できませんが、条件の偏りが構造的に生じやすいこと自体は、公的な資料でも指摘されています。
公正取引委員会と経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は、出資契約をめぐる問題が生じる背景として、経営陣の知識・経験不足やアドバイザーの欠如によって契約交渉が不足し、不利な条件を受け入れてしまう類型を挙げています。あわせて、資金が尽きる直前に出資契約が締結され、他の出資者との交渉を開始することが困難な状況が、不利益な要請を受け入れざるを得ない場合につながり得るとしています。同指針には、出資者の事前の許可なく他社から資金調達を行わないこととされた例や、経営株主個人に対する株式の買取請求が可能な条項を一方的に定められた例が、問題となり得る事例として掲載されています。
参考: 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月31日策定、令和8年2月19日改正) https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html
はじめての資金調達では、提示された条件が相場と比べて妥当なのかを判断する材料がありません。この連載が、その材料の一部になればと考えています。
4. 9つに共通する構造
型はさまざまですが、手当てが遅れた場合の詰まり方には共通点があります。
第一に、修正コスト・難易度が時間の比例、または、指数関数になっていることです。設立直後であれば当事者の合意だけで済んだ話が、外部株主が入ると同意の取り付けが必要になり、企業価値が上がると資金が必要になります。事業が伸びるほど直しにくくなるのです。
第二に、当事者が増えるほど、全員の利害が一致する瞬間が減っていくことです。株主が3人のときに通った話が、10人になると通らないことがあります。見直しの機会は、時間の経過とともに静かに狭まっていきます。
第三に、いずれの節目でも、資本構成そのものよりも「なぜそうなっているのかを説明できるか」が問われる点です。持分比率に決まった基準があるわけではありません。新たな投資家も、買い手も、取引所や引受証券会社も、確認するのは、その構成で経営が続くのか、価格の決め方に説明がつくのか、株主の経緯をたどれるのか、といった点です。説明のつかない移動や、由来を追えない株主が残っていることのほうが問題になります。
5. 連載の進め方
各回は、その型がどういう状態を指すのか、放置した場合にどこで詰まるのか、どの時期であれば何ができるのか、という順で扱います。同じ構成でも問題にならなかった会社が何をしていたのかについても、分かる範囲で触れます。上場を目指す会社だけの話にはしません。資金調達、M&A、経営陣や創業メンバーの退任といった場面でも、同じ構造が現れるためです。
制度面については、東京証券取引所の上場審査基準や、公正取引委員会・経済産業省の出資に関する指針など、公表されている資料を根拠として示します。他方で、実務上どう扱われているかについては、明文の基準がない領域も多くあります。その部分は、一般に語られている内容や筆者の経験に基づくものとして、区別して記載します。
第1回は、①の「創業者が株式を持たないまま経営を担う」から始めます。
なお、持分の推移を数字で確かめたい場合は、IPOナビの資本政策シミュレーター(無料・登録不要)で、増資・ストックオプション・売出しを織り込んだ試算ができます。
よくある質問
資本政策のアンチパターンとは何ですか。
本連載では、IPO準備の現場で繰り返し見られ、かつ後から是正することが難しい資本構成上の類型を指しています。該当することが直ちに失敗を意味するものではなく、節目が来たときに動けるかどうかが問われます。
資本政策はいつから考えるべきですか。
類型によって手当てに適した時期が異なります。創業株主間契約や退職時の買戻しの取決めは設立時から最初の外部調達までに、株主構成の整理は上場申請直前々期の期首より前に済ませておくのが望ましいといえます。
反社会的勢力が株主にいると上場できませんか。
東京証券取引所の上場審査等に関するガイドラインは、反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、その実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められることを審査の内容としています。株主も確認の対象に含まれます。
この連載の記事一覧
- 第0回 後から直しにくい9つの型(この記事)
- 第1回 持分なき創業者 持分なき創業者
- 第2回 創業初期の均等出資
- 第3回 退職者・離脱者に株式が残る
- 第4回 無計画な希薄化
- 第5回 早すぎる高いバリュエーション
- 第6回 SOプールの設計不足・発行の遅れ
- 第7回 親族・関係会社への株式分散
- 第8回 種類株式の条項の整理漏れ
- 第9回 上場直前期の株式移動
参考文献・一次資料一覧
会社開示資料
- 株式会社Gunosy 有価証券報告書等(大株主の状況) https://www.gunosy.co.jp/ir/library/
東京証券取引所・日本取引所グループ
- 東京証券取引所「上場審査等に関するガイドライン」
- 日本取引所グループ「上場審査基準概要(グロース市場)」 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/02.html
- 日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」 https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/guide-new/02.html
政府・公的機関等
- 経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(平成30年策定、令和4年改訂、令和7年9月増補版) https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startup_investment_agreement_guidelines/startup_investment_agreement_guidelines.html
- 法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ) https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
- 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月31日策定、令和8年2月19日改正) https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html
本記事は、IPO準備に携わる実務家向けに、資本政策上しばしば見られる類型を整理した連載の導入として作成したものです。個々の類型に該当することが直ちに問題を意味するものではありません。特定の個別事案を対象としたものではありません。実際の判断にあたっては一次資料および専門家への確認をお願いします。
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