JICPA、監査法人の登録要件厳格化へ|上場準備会社が押さえるべきポイント

2026年1月26日、日本公認会計士協会(JICPA)は、オルツの会計不正事例を受けた一連の対応策を公表しました。上場準備会社への影響を整理します。


監査法人の登録要件引き上げー会計士最低5名での上場会社当監査人登録は不可に。その他公表内容のまとめ。

JICPAは、昨今の会計不正事例を受けて(ほぼオルツのせいですが)、上場企業を監査する監査法人(登録上場会社等監査人)の登録要件を厳格化し、現行「最低5人」としている公認会計士の必要人数を引き上げる方針を発表しました。

あわせて、オルツの監査を担当した監査法人について、会則第51条第2号(相当の注意を怠った監査)違反を認定し、綱紀審査会での審査に移行することを公表しています。

図表01

2026年1月26日 JICPA公表文書一覧

種別 文書名・概要
プレスリリース

当協会の調査について(続報)

監査・規律審査会の調査終了、会則第51条第2号違反の認定、綱紀審査会への移行を公表

jicpa.or.jp/news/information/2026/20260126tqy.html

施策

登録上場会社等監査人による監査の信頼性向上に向けた取組

モニタリング強化、守秘義務対応、中長期施策(登録要件の厳格化=最低5人の人数要件引上げ検討)等

jicpa.or.jp/news/information/files/5-99-0-2-20260126.pdf

通知

新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について

監査法人向けの6つの留意事項。新規受嘱リスク評価、ビジネスモデル理解、経営者の誠実性評価等を整理

jicpa.or.jp/specialized_field/20260126kja.html


背景:中小監査法人への依存拡大。監査法人難民の余波が悪い形で実現。

IPO準備のご支援をしていると、「監査法人って会計士5人で作れるんですか?」と驚かれることがあります。実際、公認会計士法上の設立要件は「社員5人以上」であり、この事実はあまり知られていません。

2020年以降などが顕著でしたが、大手監査法人(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwC)は、監査リスクや採算性の観点からIPO監査の新規受嘱に慎重な姿勢を強めていました。その結果、監査法人難民という言葉が生まれ、そして、上場準備会社の監査は新たに勃興した法人も含め、中小監査法人に集中する構造が生まれました。

2025年に発覚したオルツの会計不正は、まさにこの中小監査法人であるシドー監査法人が担当した案件でした。オルツは不正を看過するような監査法人を探していたともされており、これを受けてJICPAは、監査品質の底上げに向けて合併などによる規模拡大を促す狙いです。

図表02

IPO監査を取り巻く構造変化

1

大手監査法人の動向

監査リスク・採算性の観点からIPO監査の新規受嘱に慎重化

2

中小監査法人への集中

上場準備会社・新興上場企業の監査が中小法人に流入

3

品質管理上の課題・オルツ事件勃発

人的リソース・不正事例の経験が限られる中での監査品質維持が課題に。リスクが発現する形でオルツ事件発生。

4

JICPAの対応(2026年1月26日公表)

登録要件厳格化(人数引上げ)により合併・規模拡大を促進


監査法人交代時の新たなルール

今回の発表では、監査法人交代時の情報共有体制の強化も打ち出されています。

前任・後任間の引継強化

監査法人が交代する際、後任監査法人は前任に対して、交代事由や会計処理に関する見解の相違、不正が疑われる状況などを確認することが求められます。JICPAは2026年3月に守秘義務解除に関する契約書ひな形を周知する予定です。

取引所・主幹事によるヒアリング

東京証券取引所は2025年12月に「新規上場ガイドブック」を改訂し、直近3年以内に監査法人の交代があった場合、前任監査法人へのヒアリングを実施する場合があることを明記しました。主幹事証券会社も同様に、上場適格性調査の一環として前任監査法人に確認を行う場合があります。

上場準備会社は、監査法人交代の理由が取引所・主幹事・後任監査法人に共有されることを前提に、前任監査法人との守秘義務解除等の環境整備を行う必要があります。

図表03

監査法人交代時の情報共有体制

前任・後任監査法人間

共有される情報 交代事由、会計処理の見解相違、不正の疑い、経営者の誠実性
会社の対応 前任監査法人との守秘義務解除の同意
JICPA対応 契約書ひな形の周知(2026年3月予定)

取引所(東証)

対象 直近3年以内に監査法人交代がある場合、前任へのヒアリング実施の可能性
確認事項 契約締結の経緯、経営者とのコミュニケーション、内部管理体制
根拠 新規上場ガイドブック(2025年12月改訂)

主幹事証券会社

対象 上場適格性調査の一環として、前任監査法人への確認
会社の対応 取引所と同様、守秘義務解除等の環境整備が必要

上場準備会社への主な影響

1. 監査法人の受嘱審査が厳格化

監査法人交代時の前任への情報照会が強化されます。交代理由や見解の相違は、後任監査法人・取引所・主幹事に共有される前提で行動する必要があります。今までも各説、Ⅱの部に監査法人交代理由を記載する必要がありましたが、より深くその理由が見られることとなります。

2. 監査手続の深度が増す

特にAI・暗号資産等の新技術ビジネスでは、収益認識の検討に時間を要します。「業界慣行だから」では通用しません。循環取引についての監査手続きもより深度を増した対応が求められるでしょう。

3. 中小監査法人の再編可能性

登録要件の引上げにより、監査法人の合併・統合が進む可能性があります。現在、中小監査法人と契約中の会社は、将来の体制変更を視野に入れておく必要があります。PwCあらた監査法人とPwC京都監査法人の合併がありましたが、対外的に見えている部分では、特に大きな影響はありませんでした。特段気にしておく必要はないかなと思いますが、事実としては認識が必要でしょう。


参考リンク


2026年1月26日時点の情報に基づく

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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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