東証がグロース市場「特設ページ」を開設 ― 成長企業の"見える化"は何を変えるか

グロース市場改革の新たな一手、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を一覧化


この記事でわかること


1. 東証がグロース市場「特設ページ」を開設をしました。

2026年2月6日、東京証券取引所(以下「東証」)は、JPX総研が提供する「JPxData Portal」上に「グロース市場特設ページ」を開設しました。

グロース市場特設ページ
グロース市場特設ページ

このページは、グロース市場に上場する企業のうち、「高い成長を目指した経営」に積極的に取り組んでいる企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」(以下「成長可能性開示」)を一覧化したものです。全グロース上場企業が自動的に掲載されるわけではなく、企業側が掲載を希望して申請する仕組みとなっている点が特徴です。 (このため、逆に言えば、企業側が希望して申請出来ていない企業=IRに積極的でない医会社も炙り出せますね。)

参考: グロース市場特設ページの開設について(2026年2月6日)


2. グロース市場改革の全体像 ― 今回の施策はどこに位置づけられるか

今回の特設ページ開設を正しく理解するには、東証が進めているグロース市場改革の全体像を押さえておく必要があります。

東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」での議論を踏まえ、グロース市場を「高い成長を目指す企業が集う市場」とするための一連の施策を展開してきました。主な取組みを時系列で整理すると、次のようになります。

図表01 ― グロース市場改革の主な施策

グロース市場改革タイムライン

2024年5月〜2026年2月|東証の主な取組みの流れ

20245月

投資者への情報発信充実を要請

新規上場時の開示充実、上場後の継続的な事業計画の進捗開示、IR活動の強化を求める対応を公表

20251月

機関投資家コンタクト希望企業の一覧化

機関投資家からのコンタクトを希望するグロース市場上場会社の一覧表を公開し、毎月更新を開始

20259月

上場維持基準の見直しを公表

2030年より上場維持基準を引き上げ。同時に全グロース上場会社に「高い成長を目指した経営」の実現に向けた対応を要請

202512月

取組み事例集を公表

投資家が評価しているグロース上場企業の取組み事例を取りまとめ、検討の参考資料として公表

20262月

グロース市場特設ページを開設

成長企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」を一覧化した特設ページをJPxData Portal上に開設。企業の申請制を採用

出所:東京証券取引所「グロース市場の機能発揮に向けた対応」をもとにIPOナビ作成

つまり、今回の特設ページは単独の施策ではなく、上場維持基準の厳格化、成長に向けた働きかけ、サポートの取組みという「三位一体」のグロース市場改革の中に位置づけられる施策といえます。上場維持基準が厳しくなる2030年に向けて、企業に自律的な成長と情報発信を促すための環境整備の一環と理解するのが適切でしょう。

参考: グロース市場の機能発揮に向けた対応


3. そもそも「事業計画及び成長可能性に関する事項」とは

ここで、特設ページの掲載コンテンツである「事業計画及び成長可能性に関する事項」について整理しておきましょう。

この開示は、2022年4月の市場再編に伴い導入されたもので、グロース市場の上場企業に対して継続的な開示が義務づけられている資料です。旧マザーズ市場の「投資に関する説明会の開催義務」や旧JASDAQグロースの「中期経営計画の策定義務」を一本化した制度として位置づけられています。

具体的には、以下のような内容の開示が求められます。

  • ビジネスモデル(事業の収益構造)
  • 市場環境(市場規模、競合環境)
  • 競争力の源泉(経営資源・競争優位性)
  • 事業計画(成長戦略、具体的な施策、重要な経営指標)
  • リスク情報(認識するリスクとその対応策)

新規上場時に上場日当日の開示が求められるほか、上場後も少なくとも1事業年度に1回以上の頻度で、進捗状況を反映した最新の内容を開示しなければなりません。開示された資料はTDnet(適時情報伝達システム)を通じて公開されます。

「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示例
「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示例

なお、東証は開示の質を高めるための参考資料として開示例も公表しており、投資者・アナリストからの意見を踏まえた開示のポイントが取りまとめられています。

参考: 「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示例


4. 特設ページの仕組みと注目すべきポイント

今回開設された特設ページには、いくつか注目すべき特徴があります。

第一に、掲載が申請制であるという点です。全グロース上場企業の開示資料が自動的に掲載されるのではなく、「高い成長を目指した経営」に積極的に取り組んでおり、かつ掲載を希望する企業が申請を行う仕組みとなっています。この設計は、成長に前向きな企業とそうでない企業を投資家が識別しやすくする効果を狙ったものと考えられます。冒頭に書いた通り、こちらに申請をしていないかいっやは、IRに積極的でないとみなされる可能性があります。

第二に、既存のTDnet開示とは異なる「見せ方」を提供している点です。成長可能性開示はこれまでもTDnetで公開されていましたが、個別企業ごとに検索する必要があり、横断的に比較しにくいという課題がありました。特設ページでは複数企業の開示を一覧形式で閲覧できるため、投資家にとっての利便性が向上すると期待されます。

第三に、提供主体がJPX総研であるという点です。東証本体ではなくJPX総研のJPxData Portalに設置されていることから、今後のデータ提供の拡充や分析機能の追加といった展開の可能性も考えられます。

参考: グロース市場特設ページ(JPxData Portal)


5. 個人的な評価と課題 ― この施策をどう見るか

今回の特設ページ開設について、いくつかの観点から評価と課題を整理します。

評価できる点として、まず「やる気のある企業」を可視化する仕組みを制度化した点が挙げられます。申請制を採用したことで、掲載企業は「成長に向けた情報発信に積極的である」というシグナルを市場に発信できます。2030年の上場維持基準引き上げを控え、企業に自律的な行動を促す仕掛けとして一定の意義があると思われます。

また、プライム・スタンダード市場における「資本コストや株価を意識した経営」の一覧化施策と同様のアプローチをグロース市場にも展開した点は、市場区分を横断した一貫性のある取組みといえるでしょう。

一方、課題や注目すべき点もあります。特設ページに掲載されること自体は、開示内容の「質」を保証するものではありません。申請すれば掲載される仕組みである以上、形式的な掲載にとどまる企業が出てくる可能性は否定できません。投資家がこのページをどの程度活用するかは、掲載企業の開示の質に左右されるでしょう。正直に言ってしまえば、ただのURLリンクの羅列なので、個人的にはそんなに便利でもない気もします。厳しい言い方をすると、ないよりマシくらいでしょうか。JPX総研さんの今後に期待ですかね。

また、申請しない企業に対する市場の評価がどう変化するかも注目されます。「載っていない=成長意欲が低い」と見なされるような実質的な圧力が働くのかどうかは、今後の掲載企業数の推移を見て判断する必要があります。どこかで炙り出してみようかな。


6. IPO準備企業への示唆 ― 上場後の開示を見据えた準備を

最後に、IPO準備企業にとっての示唆を考えます。

今回の施策から読み取れるメッセージは明確です。東証は、グロース市場の上場企業に対して「上場したら終わり」ではなく「上場後も継続的に成長を示し、情報発信を行うこと」を強く求めています。2030年の上場維持基準引き上げと合わせて考えると、この方向性は今後さらに強まると考えられます。

IPO準備企業がいま意識すべきことは、大きく2つあります。

第一に、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示を上場準備段階から意識することです。この資料は上場日当日に開示が求められ、上場申請時にもドラフトの提出が必要です。ロードショーマテリアルが基礎となる資料にはなりますが、単なる審査書類ではなく、上場後に継続的にアップデートしていく「投資家とのコミュニケーションツール」として設計する視点が重要です。

第二に、上場後のIR体制を早い段階から構想しておくことです。特設ページへの掲載、機関投資家との対話、成長戦略の継続的な開示といった取組みに対応するには、CFOやIR担当者のリソース確保を含めた体制の整備が欠かせません。上場後に慌てて対応するのではなく、準備段階から上場後の開示・IR活動のあり方を検討しておくことが望ましいでしょう。

東証が公表している開示例やグロース上場企業の取組み事例集は、上場準備段階においても有益な参考資料です。自社の開示のベンチマークとして活用することをお勧めします。


参考リンク一覧

東京証券取引所・日本取引所グループ


本記事は、IPO準備に携わる実務家向けに、東証の最新施策を整理したものです。記載内容は公表資料に基づいていますが、詳細は一次資料をご確認ください。


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執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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