はじめに

IPO準備を進める中で、意外と判断に迷うのが「取締役会を毎月何日までに開催すればよいのか」という問題です。

主幹事証券会社から「毎月15日までに開催してください」と指導されるケースもありますが、実際に上場審査上求められる水準はどこにあるのでしょうか。本記事では、3月決算会社を前提に、取締役会の開催タイミングの目安を解説します。

結論:短信承認月は15日以内、通常月は20日前後

一番最初に結論を示します。

  • 四半期決算短信の承認がある月(四半期末から約2か月後):四半期末日から 45日以内=短信承認月の15日以内
  • 通常月(短信承認のない月):月末から おおよそ20日前後
  • スケジュール概案の策定後には、公開引受部にすぐ連携をしましょう

3月決算会社の場合、短信の承認(承認ではなく、報告とする事例もありますが)を行う月は5月・8月・11月・2月の年4回です。これらの月は東証の適時開示ルールに基づく期限があるため、逆算してスケジュールを組む必要があります。それ以外の通常月は、月次決算の締めと報告が可能なタイミングとして、翌月20日前後が実務上の目安となります。

ただし、

なぜ「四半期末月後の45日以内」=「決算承認月の15日以内」なのか

東京証券取引所は、決算短信の開示について「決算期末後45日以内の開示を原則とする」という目安を示しています(東証「決算短信・四半期決算短信作成要領等」)。

上場準備会社がこの水準を満たすためには、取締役会での承認をこの期限内に完了させる必要があります。

3月決算会社の場合、各四半期の短信承認スケジュールは以下のとおりです。

四半期決算短信の開示スケジュール(3月決算会社)

各四半期末日から45日以内に、取締役会で承認・開示を行う必要があります。

対象期間 四半期末日 45日後の目安 取締役会開催月
第1四半期 6月30日 8月14日頃 8月上旬〜中旬
第2四半期 9月30日 11月14日頃 11月上旬〜中旬
第3四半期 12月31日 2月14日頃 2月上旬〜中旬
通期決算 3月31日 5月15日頃 5月上旬〜中旬

なお、東証は45日以内を示しつつ、30日以内の「より早期の開示」を推奨しています。上場審査においては45日以内を確実にクリアしつつ、さらなる早期化への取組み姿勢も評価の対象となります。

通常月はなぜ「20日前後」なのか

短信の承認がない通常月でも、取締役会では月次業績の報告・議論が行われます。

取締役会で月次業績を報告するためには、その前提として月次決算の締め作業が完了している必要があります。一般的な上場準備会社では、月次決算の締めに営業日ベースで7〜10日程度を要するケースが多く、これに取締役会の資料作成期間を加えると、翌月の20日前後が現実的なライとなります。

具体的には、以下のような流れです。

  1. 月末:対象月の締め日
  2. 翌月1日〜10日頃:月次決算の締め作業、経理部門での数値確定
  3. 翌月10日〜15日頃:取締役会資料の作成・事前配布
  4. 翌月15日〜20日頃:取締役会の開催

上場審査では、この月次決算の早期化と正確性の両立が重要な評価ポイントとなります。月次決算が遅い会社は、経営管理体制に課題があるとみなされる可能性があります。

取締役会の日程は監査役会と連動させる

取締役会の開催タイミングを検討する際に忘れてはならないのが、監査役会(または監査等委員会)との日程調整です。

実務上、取締役会の開催日には、同日の直前の時間帯に監査役会を開催するのが一般的です。たとえば、10時から監査役会を開催し、11時から取締役会を開催するといったスケジュールです。これは、監査役会で月次業績の報告内容や取締役会付議議案の妥当性を事前に確認し、取締役会の場で監査役としての意見を述べられる状態にしておくためです。

四半期決算短信の承認月であれば、監査役会で決算数値のレビュー結果や監査上の論点を共有したうえで、続く取締役会での承認決議に臨む流れとなります。

この前後関係は、上場審査においても確認されるポイントです。東証のチェックリストでは取締役会に対する監督機能の実効性が問われますが、監査役会が取締役会の後に開催されている場合、「事前の監査・チェック機能が形式的になっていないか」と疑義を持たれる可能性があります。

年間スケジュールを策定する際は、以下の順序を意識して日程を組みましょう。

  1. 月次決算の締め完了(翌月10日〜15日頃)
  2. 取締役会資料・監査役会資料の作成・事前配布
  3. 監査役会の開催(取締役会と同日・直前の時間帯)
  4. 取締役会の開催

監査役会と取締役会の日程を一体のものとして管理することで、ガバナンス体制の整備状況を審査上もアピールしやすくなります。

主幹事証券が「15日まで」と言う背景

主幹事証券会社が「毎月15日までに取締役会を開催してください」と指導するケースがあります。これは必ずしも上場審査上の絶対的な要件ではありませんが、以下のような意図があります。

(1)経営管理体制の成熟度を示すため

月次決算を短期間で締められるということは、経理体制が整備されており、業務プロセスが効率化されている証拠です。15日までに取締役会を開催できる体制は、上場会社としての管理水準に達していることをアピールする材料となります。

(2)審査上のバッファを確保するため

上場審査期間中は、主幹事証券会社や取引所から追加の質問や資料要求が入ることがあります。取締役会の開催が月後半にずれ込むと、各種対応のスケジュールに余裕がなくなります。15日までという目安は、こうしたバッファを確保する意味合いもあります。

(3)上場後の開示スピードへの準備

上場後は、適時開示のスピードが一層求められます。上場前の段階から早い開催サイクルに慣れておくことで、上場後のスムーズな移行が期待できます。

ただし、すべての会社に一律に15日が求められるわけではありません。業種や事業の特性、経理体制の状況などを踏まえ、主幹事証券会社と協議のうえ、自社にとって現実的かつ改善余地のあるスケジュールを設定することが重要です。

上場審査で確認される「取締役会の実効性」

ここまで取締役会の「開催タイミング」に焦点を当ててきましたが、上場審査で問われるのはタイミングだけではありません。東証は「新規上場ガイドブック」のグロース市場事前チェックリストにおいて、取締役会の運営全般について以下の7つの観点から確認を行うとしています。

(1)取締役会について

業務執行の最高意思決定機関である取締役会において、十分な議論・検討がなされず、取締役会が形骸化しているような場合は、取締役会に求められる取締役の業務執行に対する監督機能が働かず、会社としての意思決定が特定の者により実質的に決定されてしまうこととなり、ひいては特定の者の利益を優先し、株主の利益が侵害される危険性が生じるものと考えられます。したがって、取締役会においては、議案に係る検討資料や月次業績資料などに基づいた十分な議論・検討と、その過程を経た組織的な意思決定・監督が求められます。

①取締役会を定期的に開催していますか。また、必要に応じて機動的に開催し、迅速な意思決定を行うことができますか。

②取締役会における議案に関しては、十分な議論・検討がなされたうえで決定されていますか。また、そのための十分な経営管理資料などの検討資料が用意され、かつ、取締役会議事録が適法に整備されていますか。

③業務運営上の重要な報告が適切に行われていますか。

④取締役会の業務執行役員に対する監督が有効に機能していますか。

⑤特定の者の利益を優先するような決議が行われていませんか。

⑥取締役の他社との兼任関係などが、会社の意思決定や業務遂行を阻害するものとなっていませんか。

⑦取締役会の決議方法がコーポレート・ガバナンスの観点から適当な決議方法となっていますか。

――東京証券取引所「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」Ⅴ グロース市場事前チェックリスト 2(1)より

このチェックリストから読み取れるとおり、審査では 取締役会が「形だけの会議」になっていないか が問われています。取締役会の開催タイミングが重要なのは、それ自体が目的ではなく、①で求められる「定期的な開催」の前提であり、②の「十分な検討資料の用意」や③の「重要な報告」を適切に行うための基盤だからです。

月次決算が遅れれば、取締役会に提出する経営管理資料の質が落ち、結果として「十分な議論・検討」(②)が行われたとは評価されにくくなります。逆に、早い段階で正確な月次データを取締役会に報告できる体制があれば、③の「業務運営上の重要な報告」も充実し、④の「業務執行役員に対する監督」の実効性も高まります。

つまり、取締役会の開催タイミングの早期化は、単なるスケジュール管理の問題ではなく、取締役会全体のガバナンス機能を高めるための基盤づくりとして捉えるべきものです。

注意点:ルール上の期限に甘んじない

ここまで「45日以内」「20日前後」という目安を示しましたが、この水準はあくまで「最低限クリアすべきライン」と捉えるべきです。

上場審査においては、数値の正確性やガバナンスの実効性はもちろんのこと、「継続的に改善しようとする姿勢」 が重視されます。取締役会の開催タイミングについても同様で、「ルール上はこの日までで大丈夫だから」と現状に安住するのではなく、決算早期化・取締役会早期化に向けた取組みを継続的に進めることが期待されています。

たとえば、以下のような取組みが考えられます。

早期化に向けた取組みの例
  • 月次決算の締め日数を段階的に短縮する目標を設定する
  • 取締役会資料の作成プロセスを効率化する(テンプレート整備、自動化等)
  • 取締役会の開催日を前倒しできた場合、その成果を記録に残す

上場審査面談や主幹事証券会社とのミーティングの際に「決算早期化にどのように取り組んでいるか」を問われた場合に、具体的な施策と進捗を説明できることが理想です。

まとめ

上場審査上、取締役会の開催タイミングは以下が目安です。

開催タイミングの目安
短信月 四半期決算短信の承認月(5月・8月・11月・2月)は、四半期末日から 45日以内
通常月 それ以外の月は、翌月 20日前後

主幹事証券から15日までの開催を求められることもありますが、上記が実務上の落としどころです。ただし、この水準に安住することなく、決算早期化・取締役会早期化に継続的に取り組む姿勢が、上場審査では高く評価されます。

また、取締役会の日程は監査役会と一体で管理し、同日の直前に監査役会を開催する運用を定着させておくことも重要です。

自社の状況に応じた現実的なスケジュールを設定し、段階的に改善を進めていきましょう。

参考:取締役会 年間開催スケジュール(3月決算会社)

四半期決算短信の承認月と通常月で、取締役会の開催目安が異なります。

短信承認月(45日以内) 通常月(20日前後) 決算月(取締役会なし※)
種別 開催目安 備考
4月 通常 〜20日頃 3月分の月次業績報告
5月 通期短信 〜15日頃 通期決算短信の承認・開示(3/31から45日以内)
6月 通常 〜20日頃 5月分の月次業績報告、株主総会関連議案
7月 通常 〜20日頃 6月分の月次業績報告
8月 Q1短信 〜14日頃 第1四半期短信の承認・開示(6/30から45日以内)
9月 通常 〜20日頃 8月分の月次業績報告
10月 通常 〜20日頃 9月分の月次業績報告
11月 Q2短信 〜14日頃 第2四半期短信の承認・開示(9/30から45日以内)
12月 通常 〜20日頃 11月分の月次業績報告
1月 通常 〜20日頃 12月分の月次業績報告
2月 Q3短信 〜14日頃 第3四半期短信の承認・開示(12/31から45日以内)
3月 通常 〜20日頃 2月分の月次業績報告、期末決算準備
※ 補足:上記は一般的な目安です。主幹事証券会社から「毎月15日まで」と指導される場合もありますが、短信月は45日以内、通常月は20日前後が実務上の落としどころです。ただし、決算早期化・取締役会早期化に継続的に取り組む姿勢が上場審査では評価されます。
IPO支援サービス

IPOに精通した公認会計士の力で
あなたの会社のIPOを成功に導きます

株式会社プライムコンサルティングは、IPOを支援する専門家集団です。
監査法人・主幹事証券の立場からIPOを一貫して支援してきた実績を基に伴走します。

無料 まずは相談してみる

オンライン相談対応

執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

IPO準備についてのご相談を承ります

初回相談無料・オンライン対応可

お問い合わせ