はじめに
上場準備を進める企業にとって、取締役会の運営は審査上きわめて重要な評価項目のひとつです。証券審査や取引所審査において、取締役会が形式的に開催されているだけでなく、取締役、監査役等の法定の全構成員が出席のうえ実質的な議論がなされているかどうかが厳しく問われます。
上場準備の現場では、「明後日の取締役会に社外役員が急な出張で出席できないかもしれない」「前回の取締役会を監査役が欠席してしまったが、問題になるか」といったご相談をいただくことがあります。また、「非常勤の社外取締役の日程がどうしても合わない」「体調不良で急遽欠席した場合、どのような対応を取ればよいか」といった具体的なケースについてお問い合わせをいただくことも少なくありません。
本記事では、上場準備期間中における取締役・監査役の欠席がどのように評価されるのか、そして欠席を防ぐために実務上どのような対応が求められるのか、それでも欠席が発生してしまった場合にどうすればよいのか、を解説します。
この記事でわかること
- 上場準備中の取締役会では、取締役・監査役の欠席は原則として認められないことがわかる
- 欠席が許容される例外的な場面と、その場合に求められる実務対応がわかる
- 年間スケジュールの事前確定やWeb会議の活用など、欠席を防ぐための具体策がわかる
- 審査において出席状況がどのように確認されるか(Ⅰの部・議事録通査等)がわかる
結論:原則として欠席は認められない
上場準備における取締役会への出席については、結論から申し上げると、原則として取締役・監査役の欠席は認められません。(「そんなことわかってるよ」と思われた方、以下で欠席が発生してしまった場合の処理も記載していますので、ぜひご参考に。)
会社法上、取締役会の決議は「議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行う」(会社法第369条第1項)とされており、法律上は過半数の出席があれば決議自体は有効です。また、監査役には取締役会への出席義務(会社法第383条第1項)が課されています。
しかし、上場審査においては法律上の最低要件を満たしていれば足りるという考え方は通用しません。審査では、取締役会がコーポレート・ガバナンスの中核機関として実効的に機能しているかが問われます。取締役や監査役が欠席するということは、その機関としての実効性に疑義を生じさせる事情として、審査上きわめてネガティブに評価されます。
なお、では、「書面決議はOKなの?」という記事は以下で解説しているので、ご確認ください。
欠席が許容される例外的な場面
唯一、欠席がやむを得ないものとして許容される場面は、体調不良、事故、災害、近親者の不幸など、本人の意思ではどうにもならない突発的かつ客観的な事由がある場合に限られます。
ただし、こうしたやむを得ない事由による欠席であっても、以下の対応が求められます。
第一に、欠席の理由を取締役会議事録に明確に記録すること。第二に、欠席が常態化していないことを証明できるよう、出席状況を一覧で管理しておくことです。
そして第三に、きわめて重要な点として、事前に欠席が判明している取締役・監査役に対しては、招集通知の送付に加え、当該取締役会で審議・報告される事項の内容を事前に共有し、当該事項について指摘すべき点や述べるべき意見がないかどうかを必ず確認することが挙げられます。
この意見聴取の結果は、取締役会の場で報告するとともに議事録にも記録し、欠席者の意見が適切に反映される仕組みが整備されていることを証跡として残す必要があります。欠席者への事後的な審議内容の報告・共有も当然に必要です。
これらの対応は、欠席者がいる場合であっても取締役会の実質的な審議機能が損なわれていないことを示すためのものであり、審査上も必ず確認されるポイントです。
やむを得ず欠席が発生した場合の対応フロー
事前に欠席が判明した場合、以下のステップを漏れなく実施してください。各ステップの実施記録は審査時の証跡となります。
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1
欠席の把握・理由の確認体調不良・事故・災害・近親者の不幸等、突発的かつ客観的な事由であることを確認
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2
招集通知の送付欠席予定者にも通常どおり招集通知を送付し、記録を残す
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3
議案内容の事前共有当該取締役会で審議・報告される事項の内容を欠席者に事前に共有
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4
意見・指摘事項の聴取議案について指摘すべき点や述べるべき意見がないか、欠席者に必ず確認する
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5
取締役会での報告欠席者から聴取した意見・指摘事項を取締役会の場で報告
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6
議事録への記録欠席理由、事前の意見聴取の内容、取締役会での報告内容を議事録に明記
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7
審議結果の事後共有取締役会終了後、速やかに審議内容・決議結果を欠席者に報告し、受領の記録を残す
Caution
出張、他の業務予定との重複、個人的な都合といった事由は、やむを得ない理由とは認められません。これらは本人のスケジュール管理や会社側の日程調整によって回避可能な事由であり、審査上は「ガバナンス意識の欠如」として厳しく指摘される可能性があります。
監査役の欠席も同様に深刻
取締役の欠席も問題ですが、監査役の欠席も同様に深刻に捉えられます。
監査役は取締役の職務執行を監査する立場にあり、取締役会への出席はその職責の根幹をなすものです。会社法第383条第1項は「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない」と定めており、これは権利ではなく義務です。
上場審査において監査役が取締役会を欠席している事実が判明した場合、監査体制そのものの実効性に疑義が呈されることになります。内部統制やコーポレート・ガバナンスの根幹に関わる問題として、審査上きわめて重大な指摘事項となり得ます。
対策(1)取締役会の年間スケジュールは事前に確定させる
取締役や監査役の欠席を防ぐための最も基本的かつ有効な対策は、取締役会の年間開催スケジュールを事前に確定させることです。
実務上、上場準備企業においては、前年度末または年度初めの段階で、向こう12か月分の取締役会開催日程を決定し、全構成員の予定を確保しておくことが通常の運用とされています。多くの場合、毎月の定例開催日(たとえば「毎月第3水曜日」など)をあらかじめ固定し、全構成員にとって最も出席しやすい曜日・時間帯を選定します。
取締役会 年間スケジュール策定イメージ(例:毎月第3水曜日開催)
前年度末または年度初めに12か月分の開催日を確定し、全構成員の予定を確保します。
<p(当たり前のことではありますが)年間スケジュールを事前に確定させることには、以下のような意義があります。
まず、全構成員がスケジュールを事前にブロックできるため、他の予定との重複を回避できます。次に、社外取締役や社外監査役など、社外の構成員についても早期に日程を押さえることが可能になります。さらに、年間スケジュールの策定・運用自体が、取締役会運営の計画性・組織性を示す証跡として審査上プラスに評価されます。
なお、臨時取締役会については必要に応じて随時開催されるものですが、この場合でも全構成員が出席できるよう、可能な限り日程調整を行うべきです。
対策(2)テレビ会議・Web会議の活用
物理的に出席が困難な場合であっても、現在ではテレビ会議やWeb会議システムを活用することで取締役会に参加することが認められています。会社法上も、各取締役が一堂に会するのと同等の相互的な意思疎通が確保される方法であれば、遠隔地からの参加も適法とされています。
ここで特に強調すべきは、テレビ会議やWeb会議による取締役会参加は、すでに広く一般的な手段として定着しているという現実です。上場企業はもとより、上場準備段階の企業においても、Web会議システムの導入・活用はもはや当然の前提とされています。
(これらのWeb開催の実務が一般的になってきたからこそ、欠席が認められなくなってきているとも言えますね)
Caution
「出張のため欠席」「海外にいるため欠席」といった理由は、上場審査において一切認められないと考えるべきです。国内出張中であれ、海外出張中であれ、あるいは軽度の体調不良により会議室への物理的な移動が困難な場合であれ、Web会議という代替手段が存在する以上、それを利用せずに欠席するという選択は、ガバナンスに対する意識の欠如と評価されます。
上場準備企業においては、取締役会規程にテレビ会議・Web会議による参加を認める旨の規定を設けたうえで、実際の運用環境(通信環境、機材、接続テスト等)を整備しておくことが不可欠です。規程上の手当てだけでなく、いつでもWeb会議で出席できる実務体制を構築しておくことが求められます。
審査における出席状況の確認方法
証券会社の引受審査や取引所の上場審査において、取締役会への出席状況は複数の経路で確認されます。
(1)Ⅰの部(新規上場申請のための有価証券報告書)での確認
Ⅰの部は有価証券届出書の様式に準じて作成されますが、「第4 提出会社の状況」内の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の欄において、取締役会の活動状況として開催頻度や個々の構成員の出席状況を記載することが求められています。2023年の開示府令改正以降、この記載はより明確に義務化されており、Ⅰの部を通じて出席状況が外形的に把握されることになります。
(2)取締役会議事録の通査
審査担当者は、直前期および申請期における全取締役会議事録を通査し、各回の出欠状況を詳細に確認します。Ⅰの部の記載内容と議事録の記載内容に齟齬がないかどうかも当然に検証されます。欠席がある場合には、その理由、頻度、欠席者の属性(常勤・非常勤、社内・社外)、代替的な情報共有の有無などが質問事項として取り上げられます。
(3)Ⅱの部・各種説明資料での確認
Ⅱの部や各種説明資料(グロース市場の場合)においても、取締役会の運営実務として、日程調整の方法、議案の確認・調整方法、欠席者がいる場合における議題共有や検討のための代替策等について説明が求められます。
欠席が繰り返される場合のリスク
特に、特定の取締役や監査役が繰り返し欠席している場合には、「当該人物がそもそも取締役・監査役としての適格性を有しているのか」「名目上の役員ではないか」といった観点からの追及を受ける可能性があります。これは上場審査において、実質的なガバナンス体制が構築されているかどうかを判断するうえで、非常に重要な論点です。
まとめ
上場準備における取締役会運営において、取締役・監査役の欠席は原則として認められません。体調不良や事故などの真にやむを得ない事情がある場合を除き、すべての構成員が毎回出席することが求められます。
欠席を防ぐためには、年度初めまたは前年度末に12か月分の開催スケジュールを確定させ、全構成員の予定を確保しておくことが不可欠です。また、テレビ会議やWeb会議による参加手段を整備し、物理的な移動が困難な場合であっても出席を確保できる体制を構築すべきです。
取締役会は上場企業としてのガバナンスの中核をなす機関です。上場準備段階から全構成員が高い意識をもって出席し、実質的な議論を行う文化を定着させることが、円滑な上場審査の通過に直結します。
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