
エブリー(607A)上場承認レポート|「デリッシュキッチン」で月間3,100万MAU、黒字転換を経て東証グロース上場
レシピ動画「デリッシュキッチン」を運営するエブリーが2026年8月4日に東証グロースへ上場。月間3,100万MAUのユーザー基盤と全国11,000台超のデジタルサイネージを武器に、Marketing Solutionビジネスを拡大している。
株式会社エブリー(証券コード:607A)は、レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」を中心に、店頭デジタルサイネージを活用したリテールメディア事業を展開する企業です。2026年6月30日に東京証券取引所より上場承認を受け、同年8月4日にグロース市場へ新規上場する予定となっています。主幹事はSMBC日興証券、想定発行価格は230円で、想定時価総額は約47.7億円となっています。
同社は2015年9月に元グリー執行役員の吉田大成氏が創業し、レシピ動画メディアで国内最大級のユーザー基盤を築き上げてきました。長らく先行投資による経常損失が続いていましたが、2026年6月期は第3四半期累計で経常利益323百万円を計上し、黒字転換を果たしている点が注目されます(STARTUPS JOURNAL, 2018年6月)。
企業概要
創業経緯と社長の経歴

代表取締役社長の吉田大成氏は、2005年にヤフー株式会社へ新卒入社後、2006年にグリー株式会社へ転籍し、2010年12月に同社執行役員に就任したといいます。グリー時代には、ガラケーからスマートフォンへの市場転換期において、『釣り★スタ』『探検ドリランド』など世界初となるモバイルソーシャルゲーム事業を立ち上げたとのことです(STARTUPS JOURNAL, 2018年6月)。
2015年6月にグリーを退職した同氏は、「動画がテレビCMに取って代わる」という確信を持ち、2015年9月にエブリーを設立したといいます。設立直後の同月にレシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」とライフスタイル動画メディア「KALOS」を立ち上げ、その後ファミリー向け「MAMADAYS」、ニュース&エンタメ「TIMELINE」と分散型動画メディアを矢継ぎ早に展開しました。経営哲学について吉田氏は「チャレンジをしないことは衰退の始まり」と語っており、チャレンジから生まれる学びと成長を重視する姿勢がうかがえます(STARTUPS JOURNAL, 2018年6月)。
事業内容と特徴
エブリーはメディアプラットフォーム事業の単一セグメントで、主力の「デリッシュキッチン」を中心とした複数の動画メディア、および店頭デジタルサイネージを活用したリテールメディアを運営しています。事業は広告主向けの「Marketing Solutionビジネス」とユーザー向けの「Consumerビジネス」、そしてその他ビジネスから構成されています。
主力メディアの「デリッシュキッチン」は、管理栄養士監修のレシピ動画コンテンツを2026年4月時点で57,000本以上公開しており、アプリ・ウェブ合算の月間アクティブユーザー数は3,100万超、SNS総フォロワー数は1,300万超に達しているとのことです。アプリ内でのレシピ評価は5段階中4.4と高水準を維持しており、国内最大級のレシピ動画メディアとしての地位を確立しています。
特徴的なのは、オンライン上のユーザー属性・行動データと、店頭デジタルサイネージや小売連携で取得するオフラインの購買データを統合した「食生活行動ビッグデータ」を保有している点です。これにより、従来のデジタル広告では困難とされてきた実店舗における広告効果の可視化を実現していると説明されています。


収益構造
Marketing Solutionビジネスは、食品メーカー等の広告主に対し、SNS・自社メディア・店頭サイネージを横断した広告ソリューションを提供する事業で、収益源は以下の通り多岐にわたります。
- タイアップ広告:自社メディアでブランド・商品を題材としたコンテンツを制作・配信し、制作費と配信費を獲得
- ディスプレイ広告:アプリ・ウェブの広告枠における表示回数連動の広告配信
- ストアビジョン広告:全国11,000台超の店頭デジタルサイネージで動画広告を配信、購買意欲喚起効果を訴求
- ユーザーマッチング広告:成功報酬型でユーザーデータを活用した送客
- 運用型広告/アドネットワーク広告:他プラットフォーム向け広告運用代行や広告枠販売
- retail HUB(小売向けDX支援):店頭デジタルサイネージ設置(ストアDX)と小売向けアプリ・ネットスーパー機能の開発・保守

Consumerビジネスでは、月額480円の「デリッシュキッチン プレミアムサービス」(限定レシピ閲覧・お気に入り無制限など)と、冷凍弁当「ミールズ」のEコマースを運営しています。第10期(2025年6月期)の販管費は、給料968百万円・支払手数料554百万円が中心となっており、人件費・販促費が主要なコスト構造であることがわかります。
市場環境
電通「2025年日本の広告費」によれば、2025年の国内インターネット広告費は4兆459億円(前年比10.8%増)と過去最高を更新し、うちビデオ動画広告は1兆275億円(同21.8%増)と高い伸びが続いていると説明されています。さらにCARTA HOLDINGSの推計では、2026年のビデオ動画広告は1兆1,783億円(前年比14.7%増)へ拡大する見込みとされています。
特に注目すべきは、CARTA HOLDINGSの調査でリテールメディア広告市場が2029年には2024年比約4倍の1,939億円に達し、うちデジタルサイネージ広告市場が350億円規模になると予測されている点です。食品・飲料・酒類の購買の95.5%が店頭でなされていることから(経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」)、店頭でのリテールメディアの重要性は今後一層高まると見込まれます。
一方、レシピ動画メディアではdely株式会社(クラシル、証券コード:299A)が2024年12月にグロース市場へ上場しているほか、クックパッド(証券コード:2193)も存在しており、競争環境は決して緩やかではありません(RTB SQUARE, 2024年12月)。
業績推移
第6期(2021年6月期)から第10期(2025年6月期)にかけて売上高は2,092百万円から4,250百万円へと約2倍に拡大しました。経常損失も第6期の▲1,372百万円から第10期の▲30百万円までほぼ収支均衡まで縮小しており、収益性が大きく改善してきていることがわかります。さらに第11期第3四半期累計期間(2025年7月〜2026年3月)では売上高3,830百万円・経常利益323百万円を計上し、本格的な黒字転換を実現しています。
| 2021年06月期 | 2022年06月期 | 2023年06月期 | 2024年06月期 | 2025年06月期 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 2,092,802 | 2,425,447 | 2,579,809 | 3,359,709 | 4,250,933 |
| 経常利益(千円) | -1,372,118 | -1,004,041 | -544,249 | -644,242 | -30,306 |
| 純利益(千円) | -1,396,301 | -1,056,985 | -554,898 | -771,364 | -32,738 |
| EPS(円) | -279.26円 | -211.40円 | -110.98円 | -154.27円 | -6.55円 |
| 総資産(千円) | 2,345,920 | 1,186,024 | 2,945,832 | 2,474,808 | 2,445,645 |
| 純資産(千円) | 1,299,428 | 242,443 | 2,091,912 | 1,320,548 | 1,287,809 |
| 自己資本比率 | 0.6% | 0.2% | 0.7% | 0.5% | 0.5% |
| 従業員数 | 232名 | 208名 | 183名 | 193名 | 191名 |
中間損益計算書によれば、2025年7月〜12月の中間期では売上高2,597百万円に対して営業利益244百万円、中間純利益243百万円を計上しており、四半期ベースでも安定的な収益性が確認できます。営業活動によるキャッシュ・フローも第10期は▲81百万円とほぼ均衡水準まで改善し、現預金は2025年6月末で1,741百万円を保有しています。なお、Marketing Solutionビジネスの売上高は2024年6月期2,268百万円→2025年6月期3,144百万円(+38.6%)と伸長し、年間顧客単価1千万円以上の「ロイヤル顧客」社数は42社から62社へと47.6%増加しているとのことです。

株主構成
筆頭株主は創業者の吉田大成代表取締役社長で、上場時発行済株式総数に対する保有比率は21.49%となっています。第2位以下にはKDDI株式会社(13.09%)、伊藤忠食品株式会社(10.91%)、加藤産業株式会社(10.91%)といった事業会社が並んでおり、通信キャリアと食品卸の両軸との資本・業務提携関係が株主構成に色濃く反映されています。
ベンチャーキャピタル等の保有割合は発行済株式総数の31.43%と相応に高い水準にあり、ロックアップは原則180日ですが、WiL・DCM・グロービス・DBJキャピタル等のVCには「90日経過後または公募価格の1.5倍以上で売却可能」という解除条件が付されています。なお、KDDI株式会社の子会社auコマース&ライフ株式会社が運営するau PAY マーケット上のライブコマースについて、2026年9月30日付で契約終了となる旨の通知を受領しているとされ、上場後の取引動向には留意が必要です。
成長戦略
エブリーは、主力事業であるMarketing Solutionビジネスの売上高と、それを構成する「顧客社数」「顧客単価」を経営上の重要指標と位置づけており、特に年間取引単価1千万円以上の「ロイヤル顧客」の獲得に注力しているとのことです。
新規ユーザーの獲得とユーザーアクティビティ活性化
国内最大級となった「デリッシュキッチン」のユーザー基盤をさらに拡大するため、コンテンツ拡充と無料アプリ機能・カスタマーサポートの強化を継続的に進めています。月額480円のプレミアムサービスや冷凍弁当「ミールズ」のEコマースを通じて、ユーザーあたりの収益性を高めていく方針です。
オンライン×オフラインの融合による広告ソリューション高度化
オンラインのユーザーデータと、店頭デジタルサイネージ・小売連携で取得するオフラインの購買データを統合し、広告主に対して購買効果の可視化までを含めたソリューションを提供します。これにより、従来のデジタル広告では困難だった実店舗ROIの計測を実現し、顧客単価の最大化を狙うとされています。
リテールメディア領域での取り組み強化
2024年11月時点で全国の小売店舗に設置するデジタルサイネージは累計11,000台を突破しており、伊藤忠食品・加藤産業・旭食品など食品卸大手とのアライアンスにより設置網の拡大を加速させています。小売企業向けのアプリ開発・導入支援(retail HUB)も併走しており、オフラインデータの蓄積基盤を強化していく方針とのことです(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン, 2023年2月)。

調達資金の使途
本IPOによる差引手取概算額213百万円に、第三者割当増資(SMBC日興証券割当)の手取概算上限187百万円を加えた手取概算合計上限401百万円について、事業拡大のための(1)採用活動費及び人件費、(2)広告宣伝費に充当する予定です。具体的には2027年6月期から2029年6月期にかけて、Marketing Solutionビジネス強化・データ基盤整備・新規機能開発を担う営業職・エンジニア・コーポレート人材の継続採用に311百万円、自社サービスの認知拡大と新規ユーザー獲得・アクティビティ活性化のための広告宣伝に90百万円を充当する計画です。
IPOのオファリングの概要
本IPOの特徴と留意点
本IPOは、公募1,105,300株に加えて売出4,815,100株、オーバーアロットメント888,000株という構成となっており、売出株式数が公募株式数を大きく上回る既存株主の換金色が強い案件となっています。なお、オーバーアロットメント分については、SMBC日興証券に対する第三者割当増資(上限888,000株)により対応される予定です。
想定発行価格230円ベースでの吸収金額はオーバーアロットメント込みで約15.7億円、上場時時価総額は約47.7億円となり、グロース市場としては中型案件に分類される規模感です。オファリングレシオ(OA込)は約32.8%と高めで、需給面では売り圧力が相応に大きい案件と捉えられます。
VC等の保有比率が31.43%と相応に高い点、ロックアップに「90日/公募価格1.5倍」という解除条件が付与されている点、KDDIグループのauコマース&ライフとの契約が2026年9月末で終了予定である点は、いずれも投資判断において確認しておきたいポイントといえそうです。一方で、第11期第3四半期累計で経常利益323百万円・当期純利益320百万円を計上し、本格的な黒字転換を実現していること、ロイヤル顧客が前年比47.6%増と高成長していることはポジティブな要素として評価できます。
バリュエーション比較
レシピ動画・食領域のメディアプラットフォーマーで上場している主要競合と、想定発行価格ベースでのバリュエーションを比較します。エブリーは申請期である2025年6月期がほぼ収支均衡であったため、PSR(株価売上高倍率)を中心に比較しています。
| 企業名 | コード | 時価総額 | 売上高 | 営業利益率 | PSR | 売上成長率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| エブリー | 607A | 約47.7億円(想定) | 42.5億円(2025/6) | ▲0.6% | 約1.1倍 | +26.5% |
| クラシル(dely) | 299A | 約420億円 | 131.0億円(2025/3) | 約20% | 約3.2倍 | +33.6% |
| クックパッド | 2193 | 約93億円 | 53.4億円(2025/12) | 約5% | 約1.7倍 | ▲9.2% |
※ 時価総額の取得時点:エブリーは想定発行価格230円×上場時発行済株式総数20,738,108株(2026年6月30日有価証券届出書)、クラシル・クックパッドは2026年6月時点の参考値(出典:Yahoo!ファイナンス)。PSRは各社の時価総額÷直近通期売上高で算出。
レシピ動画No.1で売上規模・利益水準・成長率のいずれも先行するクラシル(dely)と比較すると、エブリーのPSR約1.1倍は約3分の1の水準にあり、想定価格ベースでは控えめなバリュエーション設定といえそうです。減収減益が続くクックパッドのPSR約1.7倍と比べても割安水準であり、黒字転換とロイヤル顧客の高成長を市場が織り込んでいけば株価上昇余地はあるとみられます。
- +2026年6月期第3四半期累計で黒字転換を実現
- +ロイヤル顧客数+47.6%の高成長
- +PSR約1.1倍と同業比で割安なバリュエーション
- +月間3,100万MAUの強固なユーザー基盤
- +食品卸大手3社・KDDIとの強固な資本業務提携
- -売出比率が高くオファリングレシオ約32.8%
- -VC保有比率31.43%、解除条件付ロックアップあり
- -auコマース&ライフ向け契約が2026年9月終了予定
この記事のまとめ
- エブリーは月間3,100万MAUを誇るレシピ動画メディア「デリッシュキッチン」と全国11,000台超の店頭デジタルサイネージを掛け合わせ、オンライン×オフライン融合型のリテールメディア事業を展開している
- 第6期から第10期にかけて経常損失を大幅に縮小し、2026年6月期第3四半期累計で経常利益323百万円を計上、本格的な黒字転換を実現した
- 成長戦略の核はロイヤル顧客(年間取引単価1千万円以上)の獲得拡大で、2025年6月期は前年比+47.6%の高成長を達成、リテールメディア市場2029年1,939億円予測の追い風も期待される
- 売出株式数が公募を大きく上回り第三者割当増資も予定、VC比率31.43%と需給面では売り圧力が相応に大きい中型案件
- 想定価格ベースのPSR約1.1倍はレシピ動画上場企業のクラシル(約3.2倍)と比較して割安水準にあり、黒字転換とロイヤル顧客の成長性が評価されれば株価上昇余地はあるとみられる
出典
- 株式会社エブリー 有価証券届出書(EDINET、2026年6月30日提出)
- 東京証券取引所 新規上場会社概要
- 各社IR資料、Yahoo!ファイナンス、株探
- 電通「2025年日本の広告費」、CARTA HOLDINGS「リテールメディア広告市場調査」(2026年1月)
- 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月)
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。
IPOに精通した公認会計士の力で
あなたの会社のIPOを成功に導きます
株式会社プライムコンサルティングは、IPOを支援する専門家集団です。
監査法人・主幹事証券の立場からIPOを一貫して支援してきた実績を基に伴走します。
オンライン相談対応
