
チャットプラス(598A)IPO上場承認レポート|国内シェア首位のAIチャットボットSaaS、経常利益率36%の高収益企業
チャットプラスは7月15日に東証グロース市場へ上場。吸収金額約13.9億円、時価総額約48.8億円。国内チャットボット市場でシェア首位とされるAIチャットボットSaaS企業で、2025年6月期は経常利益率36.1%の高収益を実現。VCなしの安定した株主構成が注目。
2026年7月15日、東京証券取引所グロース市場に1社のSaaS企業が上場します。チャットプラス株式会社(598A)——導入アカウント数2,300件超を抱え、国内チャットボット市場でシェア首位とされるAIチャットボットの専業ベンダーです。
特徴的なのは、その収益性です。2025年6月期は売上高10.2億円に対し経常利益率36.1%という高水準を実現し、解約率(Churnレート)も2%前後で安定しています。一方で、業績予想が非開示である点や、創業家を中心とした株主構成には留意も必要です。本記事では、投資判断に必要な情報を整理していきます。
企業概要
創業経緯と社長の経歴
チャットプラスは2016年8月、チャットボットシステムの開発・提供を目的として設立されました。同社の源流をたどると、創業者である前代表取締役社長の西田省人氏が設立した株式会社ネットシーズに行き着きます。西田氏は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを卒業後、日本IBMで金融機関向け営業を経験し、その後ホームページ制作・システム開発会社を起業した経歴を持つといいます(AIsmiley, 2024年3月)。
創業の背景には、ガラケーからスマートフォンへの市場転換を見据えた事業構想があったとのことです。西田氏は「チャット」「AI」「フィンテック」の3つの選択肢から「チャット」を選び、2016年9月のLINE「Messaging API」提供開始という時流に乗ってチャットプラスを立ち上げたといいます(AIsmiley, 2024年3月)。
現在、同社を率いるのは代表取締役社長の大江繭子氏です。大江氏は1996年に西松建設へ入社後、2000年に前身であるネットシーズに入社。2016年にチャットプラスへ移り、営業部長、取締役COO兼営業部長、取締役CFO兼管理部長と要職を歴任し、2023年10月に代表取締役社長へ就任しました。営業・財務の現場を一貫して担ってきた、いわば叩き上げの経営者です。同社は「コミュニケーションによる感動を最大限に追求し、AIを駆使した全自動社会を最速で実現する」というミッションを掲げています。
事業内容と特徴

チャットプラスは、企業の問い合わせ対応やコミュニケーションの自動化を支援するチャットボットシステム「ChatPlus」「AI AgentPlus」、およびFAQシステム「FAQPlus」を提供するSaaS企業です。電話やメールによる従来の有人対応を自動化・省人化することで、顧客企業の業務効率化と生産性向上を支援します。チャットボットシステム及びFAQシステムの売上高が全社売上高に占める割合は97.1%(2025年6月期)に達します。
同社の最大の強みは、低価格と圧倒的な機能数です。料金プランは月額1,980円から88,000円(月契約の場合)まで用意され、初期費用や最低利用期間がなく、10日間の無償トライアルも提供しています。前社長の西田氏はインタビューで、国内最多導入の決め手は「価格」と「機能数」の2つだと述べ、月額1,500円(当時)という低価格でありながら、チャットボット・AIの機能数において世界的にも最多を誇ると語っていました(AIsmiley, 2024年3月)。
差別化を支えるのが、顧客ニーズを迅速に反映する開発体制です。顧客企業からの要望は社内の課題管理ツールと連携され、次回アップデート時に追加オプションとして自動的に実装される仕組みを構築しているとのことです。2023年2月には生成AIを連携した「AIチャットボットプラン」をリリースし、2025年12月にこれを「AI AgentPlus」としてリニューアル。シナリオ型に依存しない柔軟な応対へと進化させています。導入企業にはエレコム、ミスミ、ツムラ、KUMON、日本航空など、業種・規模を問わない幅広い顔ぶれが並びます。
収益構造

同社の収益は、月額・年額課金によるストック型収益が中核を成します。2025年6月期の売上構成比は、ストック型収益が93.8%、スポットの機能追加開発・設定サポート等によるフロー型収益が3.3%、コンテンツ配信サービス等が2.9%という内訳です。ストック型収益の内訳は月契約が60.9%、年契約が39.1%とのことで、継続課金を積み上げるリカーリングモデルが定着しています。サービス別アカウント数は2025年6月末時点で2,328件、ARR(年間経常収益)は10.77億円(前期比36.7%増)に達しました。
注目すべきは生産性の高さです。同社の従業員数は22名(2026年4月末時点、平均年齢29.6歳)と少数精鋭であり、この体制で10億円超の売上高と36%を超える経常利益率を生み出しています。1アカウントあたりの年間収益(ARPA)も、AI AgentPlusやFAQPlusといった高単価サービスの伸びにより上昇傾向にあり、効率的な収益構造がうかがえます。
市場環境
同社が属する自動対話システム市場は、拡大が続いています。届出書によれば、同市場は2023年の182億円からCAGR18.6%で成長し、2030年には508億円規模に達すると見込まれています。背景には、労働力人口の減少に伴う人手不足や、企業のDX推進、生成AI活用への関心の高まりがあります。
市場のなかで、チャットプラスは確固たるポジションを築いているようです。チャットボット導入に携わった1,537人を対象とした独自調査では、ChatPlusが13.53%のシェアで首位となり、2位のOfficeBot(11.00%)、3位のIZANAI by Cloud CIRCUS(8.39%)を上回ったとのことです(BOXIL Magazine, 2026年1月)。同調査では、国内チャットボット市場が2028年度に230億円規模へ達すると予測されています。
競争優位の源泉は、長年の運営で蓄積した豊富な機能と、顧客に伴走するカスタマーサクセス活動にあるとされています。生成AIを単に統合するだけでは差別化が難しいとされる市場環境のなか、同社は自社開発AIによってハルシネーション(誤回答)を抑制し、登録データに基づく正確な応答を実現している点を強みとしています。低い解約率は、こうした地道なサポート体制への顧客評価の表れといえそうです。
業績推移
業績推移で注目すべきは、その成長の加速度です。2025年6月期の売上高は10.2億円(前期比36.3%増)、経常利益は3.69億円(前期比127.8%増)、当期純利益は2.46億円(前期比133.5%増)と、増収を上回るペースで利益が拡大しています。生成AI型チャットボット「AI AgentPlus」の導入拡大と、のれん償却の終了などが利益急増を後押ししました。
| 2021年06月期 | 2022年06月期 | 2023年06月期 | 2024年06月期 | 2025年06月期 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 386,978 | 507,971 | 310,314 | 749,483 | 1,021,723 |
| 経常利益(千円) | 42,880 | 34,588 | 4,820 | 162,025 | 369,074 |
| 純利益(千円) | 24,411 | 26,562 | 6,381 | 105,393 | 246,051 |
| EPS(円) | 1220.57円 | 1328.13円 | 319.08円 | 26.35円 | 61.51円 |
| 総資産(千円) | 198,875 | 311,588 | 398,350 | 635,515 | 953,794 |
| 純資産(千円) | 46,316 | 72,878 | 79,260 | 184,654 | 418,705 |
| 自己資本比率 | 0.2% | 0.2% | 0.2% | 0.3% | 0.4% |
| 従業員数 | 18名 | 17名 | 22名 | 21名 | 18名 |
直近の第11期第3四半期累計期間(2025年7月〜2026年3月)でも、売上高9.12億円、営業利益4.38億円、四半期純利益2.87億円と好調を維持し、2026年3月末時点のARRは11.98億円まで積み上がっています。なお、同社は通期の業績予想を開示していないため、投資家は四半期開示やARRの推移から成長ペースを推し量る必要があります。
株主構成
同社の株主構成は、VC(ベンチャーキャピタル)が存在しない点が大きな特徴です。所有者別状況によれば、上場前の株主はその他の法人1社(40.0%)と個人7名(60.0%)のみで構成されており、創業家である西田家関連の保有が中心とみられます。現社長の大江繭子氏も株式分割後ベースで126万株を保有する大株主です。
ロックアップについては、売出人かつ貸株人である大江繭子氏をはじめ、西田厚生氏・西田幸子氏らの個人株主、資産管理会社とみられるマネーストレージ株式会社、新株予約権者など合計24名が、上場日から180日目(2027年1月10日)までの売却制限に同意しています。VCによる売り圧力がない一方、創業家への株式集中度が高い点は需給面で意識される可能性があります。
成長戦略
同社は、持続的な成長に向けて新規顧客の獲得と既存顧客の維持・単価向上の両輪を重視しています。SaaSのリカーリングモデルを基盤に、以下の戦略で事業拡大を図る方針です。
生成AIを軸としたサービス進化
成長の中核となるのが、生成AIを活用した「AI AgentPlus」の機能拡張です。同社は2025年8月に「GPT-5」を取り入れた最適化モデルをリリースし、2025年10月にはOpenAIとゼロデータ保持等のエンタープライズ契約を締結しました。今後は連携可能な外部システムの拡大や、自律的にタスクを実行する機能の開発を進め、業務の効率化・最適化を推進する方針です。生成AIへの市場の関心の高まりを追い風に、高単価サービスへの移行を促進するとみられます。
クロスセルによる顧客単価の向上
既存顧客に対しては、カスタマーサクセス活動を通じた価値提案型のアプローチを強化します。ChatPlusの上位プランやAI AgentPlus、FAQPlusへのクロスセルを進めることで、1アカウントあたりの年間収益(ARPA)を引き上げる戦略です。実際に、ChatPlusの下位プランは件数が減少傾向にあるものの、高単価サービスの伸びによってARRは毎期増加を続けており、この戦略が機能していることがうかがえます。
マーケティング投資による新規開拓
新規顧客の獲得に向けては、展示会やWeb(リスティング・SEO等)を通じた訴求に加え、無料トライアルとオンボーディング支援で導入のハードルを下げる取り組みを継続します。前社長の西田氏は、将来的に導入社数を当時の10倍にあたる4万社規模へ拡大する構想を語っており、海外展開も視野に入れているとのことでした(AIsmiley, 2024年3月)。
調達資金の使途
公募増資による調達資金は、機能強化・機能追加開発・新技術の研究開発、人材投資、販売促進活動に充当する予定です。少数精鋭体制を維持してきた同社にとって、開発・営業体制の強化に向けた人材採用は今後の成長の鍵を握ります。
IPOのオファリングの概要
本IPOの特徴と留意点
本IPOは、公募650,000株・売出500,000株・オーバーアロットメント172,500株で構成され、想定発行価格1,050円ベースの吸収金額は約13.9億円、オファリングレシオは約28.4%です。グロース市場の小型〜中型案件に位置づけられます。
需給面のプラス材料は、VCが存在しない安定した株主構成と、180日間のロックアップによる売り圧力の限定です。一方、売出株式はすべて代表取締役社長の大江繭子氏によるもので、創業家の換金ニーズが含まれる点には留意が必要です。また、主幹事を準大手の丸三証券が単独で務める点や、通期業績予想が非開示である点も、投資家が評価をやや慎重に行う要因となり得ます。
バリュエーション比較
想定発行価格1,050円で算出した時価総額は約48.8億円です。2025年6月期の実績当期純利益2.46億円ベースのPERは約19.8倍となります。ただし、直近の第3四半期累計(9ヶ月)純利益2.87億円から単純に通期換算すると、想定PERは約12.8倍まで低下し、高い成長性を踏まえると割高感は限定的といえそうです。SaaS企業として高収益・高成長を両立している点が際立ちます。
| 企業名 | コード | 売上高 | 経常利益率 | PER | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| チャットプラス | 598A | 10.2億円 | 36.1% | 約19.8倍 | チャットボットSaaS・シェア首位 |
| ユーザーローカル | 3984 | 約39億円 | 高水準 | 約22倍 | AI・チャットボット |
| AI inside | 4488 | 約47億円 | 黒字転換 | 約40倍 | AI-OCR「DX Suite」 |
| プレイド | 4165 | 約206億円(予) | 低水準 | — | CXプラットフォーム「KARTE」 |
※ 競合企業データ:2026年6月時点(株予報Pro、株探、Yahoo!ファイナンス等) 比較対象の選定基準:AI・SaaS(情報・通信業)、東証上場のチャットボット/CX関連企業
チャットプラスは、売上規模では比較対象を下回るものの、経常利益率36.1%という収益性は同業のなかでも突出しています。高成長と高収益を両立しつつ、想定PER(通期換算ベース)が同業比で割安水準にある点は、初値形成にとってプラスに働く可能性があります。
初値に関する考察とコメント
以上の考察を基に、初値に関するプラス材料、マイナス材料は以下のとおりです。VCなしの良好な需給と高収益性が魅力ですが、創業家による売出と業績予想の非開示には注意が必要です。
- +VCなしで需給良好、180日ロックアップ
- +吸収金額約13.9億円の小型〜中型案件
- +経常利益率36.1%の高収益SaaS
- +チャットボット市場シェア首位・低解約率
- +通期換算PER約12.8倍と割安感
- -売出は全て創業家社長の換金分
- -通期業績予想が非開示
- -生成AI領域の競争激化リスク
この記事のまとめ
- チャットプラス(598A)は、国内シェア首位とされるAIチャットボット「ChatPlus」「AI AgentPlus」を提供するSaaS企業
- 2025年6月期は売上高10.2億円・経常利益率36.1%と、高成長と高収益を両立
- 生成AIを軸としたサービス進化とクロスセルで、ARR(11.98億円)の積み上げを図る
- VCなし・180日ロックアップで需給は良好だが、売出は全て創業家社長による換金分
- 想定PERは実績ベース約19.8倍、通期換算では約12.8倍と、高成長を踏まえれば割高感は限定的
出典
- 有価証券届出書(EDINET)
- 東京証券取引所 新規上場会社概要
- 各社IR資料、株探、株予報Pro、Yahoo!ファイナンス
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。
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