ジェイファーマ(520A)のIPO情報——胆道がん新薬で世界に挑む創薬ベンチャー

ジェイファーマ(520A)のIPO情報——胆道がん新薬で世界に挑む創薬ベンチャー

ジェイファーマは3月25日に東証グロース市場に上場。想定時価総額約150億円。LAT1阻害薬「ナンブランラト」でFDAオーファンドラッグ指定を受けた創薬ベンチャー。グローバル第3相臨床試験が進行中。

2026年3月25日、東証グロース市場にSLCトランスポーター創薬のパイオニア、ジェイファーマが上場します。主力パイプライン「ナンブランラト」は米国FDAからオーファンドラッグ指定を受け、現在グローバル第3相臨床試験が進行中です。

想定時価総額は約150億円、吸収金額は約31億円。売上高ゼロの開発ステージ企業ながら、37億円超の大型資金調達を完了し、2030年度の承認取得を目指しています。上場時の資金調達によりさらなる開発加速が期待される一方、臨床試験の成否という大きな不確実性も伴います。本記事では、投資判断に必要な情報を整理していきます。


企業概要

創業経緯と社長の経歴

同社の経営理念(有価証券届出書より)
同社の経営理念(有価証券届出書より)

ジェイファーマは2005年12月に設立された創薬ベンチャーです。代表取締役社長の吉武益広氏は、東京大学大学院工学系修士号を取得後、コーネル大学でMBAを修了(総合成績トップ10%の優秀賞受賞)。メガファーマにおいて30年以上にわたりグローバル医薬品事業のリーダーシップポジションを歴任し、3つの医薬品のFDA・EMA承認を獲得した実績を持ちます。

同社は、大阪大学の金井好克教授らによるLAT1(L型アミノ酸トランスポーター1)の研究成果をもとに、トランスポーターを標的とした革新的な医薬品開発を目指して設立されました。設立以来、非臨床試験から臨床試験まで着実にパイプラインを進展させ、2015年にはナンブランラトの国内第1相臨床試験を開始。2022年にはFDAからオーファンドラッグ指定を受け、グローバル展開に向けた本格的な取り組みを加速させています。

2025年4月には舛屋圭一氏が代表取締役Co-CEOに就任し、2名の代表取締役体制へ移行。グローバル臨床試験の推進に向けて経営体制を強化しています。SIIFウェルネスファンドからはインパクト投資の第一号案件として出資を受けており、「がんの治療にパラダイムシフトを」というビジョンのもと事業を推進しています(note(SIIF), 2024年5月)。

事業内容と特徴

事業内容(同社HPより)
事業内容(同社HPより)

ジェイファーマは、細胞膜上のタンパク質である「SLCトランスポーター」を標的とした医薬品の研究開発を行う創薬ベンチャーです。特にLAT1(L型アミノ酸トランスポーター1)を阻害する新規作用機序の抗がん剤開発に特化しています。LAT1はがん細胞の増殖に必要なアミノ酸の取り込みを担うトランスポーターであり、これを阻害することでがん細胞の栄養供給を断ち、増殖を抑制するアプローチです。

パイプライン(同社HPより)
パイプライン(同社HPより)

主力パイプラインの「ナンブランラト(JPH203)」は、難治性の胆道がんを対象とした治療薬です。国内第2相臨床試験では、無増悪生存期間(PFS)がプラセボ群に対して統計学的に有意な改善を示し(ハザード比0.557、p=0.016)、特にLAT1高発現の肝外胆管がん・胆嚢がんに対して顕著な効果が確認されています。もう一つのパイプラインである「JPH034」は多発性硬化症の治療薬候補で、現在研究開発段階にあります。

同社のビジネスモデルは、自社で研究開発(探索・非臨床・臨床)を進め、開発成果を大手製薬企業にライセンスアウトすることで、マイルストン収入やロイヤリティ収入を得ることを目指す、創薬ベンチャーの典型的なモデルです。

収益構造

ジェイファーマは開発ステージの創薬ベンチャーであり、現時点で売上高はゼロです。収益は発生しておらず、研究開発費を中心とした費用が先行する構造となっています。将来の収益源は、ナンブランラトのライセンスアウトに伴うマイルストン収入・ロイヤリティ収入が想定されますが、現段階では実現していません。

従業員数は直近期で11名と少数精鋭体制です。研究開発の多くをCRO(医薬品開発受託機関)やアカデミアとの連携で推進しており、固定費を抑えた効率的な組織運営を行っています。

市場環境

胆道がん(胆管がん・胆嚢がん)は発症数は比較的少ないものの、予後が極めて不良な難治性がんです。胆道がん治療薬の世界市場規模は2025年時点で約38.6億米ドル(約5,800億円)と推定され、2030年には約57.1億米ドルに達すると予測されています(CAGR約8%)。近年、免疫チェックポイント阻害薬やFGFR2融合遺伝子・IDH1変異を標的とした治療薬の承認が相次いでいますが、依然として有効な治療選択肢は限られており、高いアンメットメディカルニーズが存在します。

ナンブランラトが標的とするLAT1は既存治療薬とは全く異なる作用機序であり、競合品が少ないユニークなポジションを占めています。また、FDAからオーファンドラッグ指定を受けていることで、臨床試験費用の税額控除、申請費用の免除、米国における7年間の独占販売権などの優遇措置を受けることができます。

一方、創薬ベンチャーを取り巻く資本市場環境は厳しさを増しています。東証グロース市場では「上場後5年で時価総額100億円以上」という新たな上場維持基準案が提示されており、バイオベンチャーにとっては開発の成果を早期に示すことがより一層求められる環境となっています。

業績推移

ジェイファーマは売上高ゼロの開発ステージ企業であり、研究開発投資に伴う赤字が継続しています。経常損失は第17期(2021年3月期)の約9.3億円から第20期(2024年3月期)には約16.4億円に拡大しており、臨床試験の進行に伴う研究開発費の増加を反映しています。直近の第21期(2025年3月期)は約15.3億円と若干縮小しています。

単体財務データ
2021年03月期 2022年03月期 2023年03月期 2024年03月期 2025年03月期
売上高(千円) -----
経常利益(千円) -930,832-1,076,629-1,086,760-1,640,255-1,527,089
純利益(千円) -931,819-1,080,795-1,098,260-1,652,337-1,499,008
EPS(円) -1190.10円-974.48円-952.74円-263.57円-184.05円
総資産(千円) 1,717,7451,166,2001,751,5891,207,3932,856,719
純資産(千円) 1,475,124994,3291,407,818950,1222,377,869
自己資本比率 0.9%0.9%-0.1%-0.7%0.5%
従業員数 10名13名14名13名11名

なお、同社は開発ステージの創薬ベンチャーであるため、黒字化の時期は主力パイプラインであるナンブランラトのライセンスアウトや承認取得の成否に左右されます。現時点での業績予想は公表されていません。

株主構成

筆頭株主はJICベンチャー・グロース・ファンド1号(持株比率12.82%)、次いでEight Roads Ventures Japan II(12.30%)と、複数のベンチャーキャピタルが上位株主を占める典型的な創薬ベンチャーの株主構成です。VCの合計保有比率が高く、上場後のロックアップ解除に伴う売り圧力には注意が必要です。

ロックアップ条件は、主要VC株主が90日間または売出価格の1.5倍到達で解除、事業パートナーである大原薬品工業やスペラファーマは180日間のロックアップが設定されています。取締役の藤本裕氏(第10位株主、44万株保有)も180日間のロックアップとなっています。

株主名 所有株式数 所有比率 ロックアップ
JICベンチャー・グロース・ファンド1号投資事業有限責任組合1
2,021,325
12.82%
90日 / 1.5倍
Eight Roads Ventures Japan II L.P.1
1,940,000
12.30%
90日 / 1.5倍
Newton Biocapital I Pricaf privée SA1
1,225,000
7.77%
90日 / 1.5倍
大原薬品工業株式会社1
875,000
5.55%
180日
スペラファーマ株式会社1
625,000
3.96%
180日
UntroD野村クロスオーバーインパクトファンド投資事業有限責任組合1
600,000
3.80%
-
MSIVCグローバルアカデミックシーズ投資事業有限責任組合1
527,500
3.34%
90日 / 1.5倍
F-Prime Capital Partners Life Sciences Fund VI LP1
485,000
3.07%
90日 / 1.5倍
OUVC1号投資事業有限責任組合1
462,500
2.93%
90日 / 1.5倍
藤本裕2
440,000
(150,000)
2.79%
(0.95%)
180日
合計
15,772,575
(1,182,965)
100.00%
(7.50%)
(注)1.特別利害関係者等(大株主上位10名) 2.特別利害関係者等(当社取締役(監査等委員であるものを除く)) 3.当社の元取締役 4.特別利害関係者等(当社代表取締役社長) 5.当社参与 6.特別利害関係者(当社取締役(監査等委員)) 7.当社従業員 8.( )内は、新株予約権による潜在株式数及びその割合であり、内数であります。 9.株式(自己株式を除く。)の総数に対する所有株式数の割合は、小数点以下第3位を四捨五入しております。
※本ロックアップ情報は任意ロックアップのみを表示しています。制度ロックアップは別途適用される場合があります。

成長戦略

同社の成長戦略(有価証券届出書より)
同社の成長戦略(有価証券届出書より)

同社は成長戦略として「ナンブランラトのグローバル第3相臨床試験の推進」「パイプラインの拡充」「グローバル製薬企業とのライセンス契約」の三本柱を掲げています。

(1)グローバル第3相臨床試験——Beacon-BTCの推進

最大の成長ドライバーは、ナンブランラトのグローバル第3相臨床試験「Beacon-BTC」です。本試験は胆道がん2次療法患者を対象に、全生存期間(OS)を主要評価項目としてナンブランラトとPhysician's Best Choiceを比較する設計です。2025年12月にClinicalTrials.govに登録され(ジェイファーマ公式, 2025年12月)、2026年2月には最初の治験施設での立ち上げが完了しました(ジェイファーマ公式, 2026年2月)。2030年度の承認取得を目指しています。

本試験の成否が同社の企業価値を根本的に左右するため、今後の患者登録の進捗や中間解析の結果が最大の注目ポイントとなります。

(2)パイプライン拡充——JPH034と新規ターゲット探索

第2のパイプラインであるJPH034は、多発性硬化症を対象とした新規低分子化合物で、現在研究開発フェーズにあります。ナンブランラトに続く第2の収益源として期待されますが、臨床試験の開始はまだ先の段階です。加えて、SLCトランスポーターファミリーを対象とした新規ターゲット探索も継続的に行っており、中長期的なパイプライン拡充を目指しています。

調達資金の使途

2025年4月には第三者割当増資等で37億7,000万円の資金調達を完了しており(日本経済新聞, 2025年4月)、JICベンチャー・グロース・ファンド、UntroD野村クロスオーバーインパクトファンド、BA7ベンチャーキャピタル等が参加。加えて、日本医療研究開発機構(AMED)から最大20億円の補助金も獲得しています。今回のIPOによる調達資金は、主にナンブランラトのグローバル第3相臨床試験費用およびJPH034の研究開発費に充当される予定です。


IPOのオファリングの概要

公募・売出情報
上場市場
グロース
証券コード
520A
上場予定日
2026年3月25日
想定発行価格
840円
想定時価総額
14,977百万円
公募株式数(新株発行)
3,240,000株
オファリングレシオ
18.2%
幹事証券会社
主幹事証券
SBI証券
元引受取引参加者
大和証券 マネックス証券 楽天証券 松井証券 東洋証券 東海東京証券
ジェイファーマのIPOスケジュール
1
上場承認日
2026/02/19
想定: 840円
2
仮条件決定日
2026/03/05
840 〜 900円
3
BB期間
2026/03/06 〜 2026/03/12
4
公募価格決定日
2026/03/13
880円
5
上場日
2026/03/25

本IPOの特徴と留意点

【ディールサイズ】 想定発行価格840円ベースで吸収金額は約31.3億円(OA込み)、想定時価総額は約149.8億円です。グロース市場のバイオIPOとしては中規模のディールサイズで、ナンブランラトの開発ステージ(第3相)を考慮すると、一定の投資家需要が見込まれます。

【オファリング構成】 公募3,240,000株に対して売出はわずか200株と、ほぼ全量が公募(新規発行)です。オーバーアロットメントは486,000株。既存株主の換金目的ではなく、成長資金の調達が主目的のIPOであり、この点はポジティブに評価できます。

【株主構成と売り圧力】 VC比率が高い株主構成のため、ロックアップ解除後の売り圧力には注意が必要です。ただし、主要VCの多くが90日/1.5倍条件のロックアップを受け入れており、短期的な大量売りのリスクは一定程度抑制されています。

【その他特徴】 創薬ベンチャーとしてPER・PBRによる伝統的なバリュエーション評価が困難な銘柄です。臨床試験の進捗が株価を左右するイベントドリブン型の投資対象であり、第3相試験の結果によって企業価値が大きく変動する可能性があります。

バリュエーション比較

ジェイファーマは売上高ゼロの開発ステージ企業であるため、PERやPSRによる伝統的なバリュエーション評価は適用困難です。ここでは、同じく東証に上場する創薬バイオベンチャーとの時価総額・開発ステージ比較を行います。

企業名 コード 時価総額 主要パイプライン 開発ステージ 売上高
ジェイファーマ 520A 約150億円(想定) ナンブランラト(胆道がん) 第3相 0
ステムリム 4599 約191億円 レダセムチド(再生医薬) 第3相 0
リボミック 4591 約45億円 アプタマー医薬品 研究開発段階 0
デルタフライファーマ 4598 約27億円 抗がん剤(ドラッグリポジショニング) 第2/3相 少額

※ 競合企業データ:2026年2月時点(Yahoo!ファイナンス等) 比較対象の選定基準:医薬品業種、東証上場の創薬バイオベンチャー、開発ステージ企業

想定時価総額約150億円は、第3相臨床試験を進行中の創薬バイオベンチャーとしてはステムリム(約191億円)よりやや低い水準です。ナンブランラトはFDAオーファンドラッグ指定を受けており、第2相で統計学的有意差を示した実績がある点を考慮すると、開発リスクに応じた妥当な水準といえます。

ただし、創薬バイオベンチャーの時価総額はパイプラインの成功確率と市場ポテンシャルにより大きく変動します。第3相試験の成功確率は一般に50-60%程度とされ、失敗時には時価総額の大幅な毀損が想定されることを十分に認識する必要があります。

初値に関する考察とコメント

以上の考察を基に、初値に関するプラス材料、マイナス材料は以下のとおりです。売上ゼロの開発ステージ企業であり、臨床試験の進捗次第で株価が大きく変動する銘柄です。

プラス材料
  • +FDAオーファンドラッグ指定(7年間の独占販売権)
  • +第2相で統計学的有意差を示した実績あり
  • +公募比率ほぼ100%で成長資金目的のIPO
  • +37億円超の直近資金調達で開発資金を確保済み
  • +競合品が少ないユニークな作用機序
マイナス材料
  • -売上ゼロ・赤字継続の開発ステージ企業
  • -VC比率が高く、ロックアップ解除後の売り圧力
  • -第3相試験の結果次第で企業価値が大幅変動するリスク

この記事のまとめ

  • ジェイファーマはSLCトランスポーター創薬に特化した創薬ベンチャーで、LAT1阻害薬「ナンブランラト」がFDAオーファンドラッグ指定を取得
  • 売上高ゼロの開発ステージ企業であり、経常損失は年間約15億円。黒字化はライセンスアウトや承認取得に依存
  • グローバル第3相臨床試験「Beacon-BTC」が進行中で、2030年度の承認取得を目指す。37億円超の資金調達とAMED補助金を確保
  • 公募比率ほぼ100%の成長資金目的IPO。VC比率が高いため、ロックアップ解除後の売り圧力に注意
  • 想定時価総額約150億円は同規模バイオベンチャーと比較して妥当な水準。臨床試験の成否が企業価値を左右するイベントドリブン型の投資対象

出典

  • 有価証券届出書(EDINET)
  • 東京証券取引所 新規上場会社概要
  • 各社IR資料、Yahoo!ファイナンス
  • ジェイファーマ公式サイト(https://www.j-pharma.com/)
  • Future Market Insights「Biliary Tract Cancers Treatment Market Forecast 2025-2035」

※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。

執筆者

石塚 康一

Koichi Ishizuka

株式会社プライムコンサルティング 代表取締役/公認会計士

北海道大学農学部を卒業後、監査法人トーマツ 旧トータルサービス事業部入所。IPO監査に一貫して従事し、その後、野村證券投資銀行部門へ転職。公開引受部・法人営業部門にて、IPOアドバイザリーや、IPO準備企業の発掘、オファリングの支援等を行う。2024年、株式会社プライムコンサルティングを創業し、独立した立場からIPOの伴走を行う。

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本レポートは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。